「そんなときに『最近、娘が口利いてくれなくてさぁ。君もそういう時期あった?』などと軽い悩みを持ち出すんです。いつもは怖い課長もやっぱり人間なんだなと意外な目で見られる。自分も彼氏との仲がおかしくなって悩んでいるのと同じように、課長も悩んでいるんだというふうに共感が得られます」と田中さんはアドバイスする。

部下にとっては、上司が会社で見せる姿がすべてに見えがち。仕事では厳しくても、悩みも弱みもある同じ人間ということが伝わるだけで、部下とのコミュニケーションはずいぶんと変わってくる。

アサヒビールの伊藤さんも、「後輩に軽い相談をもちかけることもあります。そんな深刻な相談ではなく、『最近帰りが遅いって嫁に言われててね』などといった軽い話です。そういう悩みや愚痴を言い合えるようになると、お互いに仕事の相談もスムーズにできるようになります」

また、こういう2人きりの状況になって慌てないように、ふだんからコミュニケーションを欠かさない姿勢も大切だ。

伊藤さんは「特に緊張している新入社員には、私から話しかけるようにしています。『お疲れー』でも何でもいいんです」。

簡単なことだが、その積み重ねがいざというときに生きてくるようだ。

積み重ねが足りないと、逆効果になることも。伊藤さんは取引先の担当者と一緒に移動した際の失敗談を語ってくれた。

「広島ではカープの話題が定番ネタですが、ごくたまにカープ嫌いの方もいます。ですから、いくら定番ネタでも、まったく知らない方にいきなり『昨日の巨人は惨めでしたね』などと話してはいけません」

【○】オレ、UFOキャッチャーに100万円は使った。
【×】昨日の巨人の負けっぷりは惨めだった。

放送作家
田中イデア
テレビ、ラジオの番組構成などで活躍するほか、ワタナベコメディスクール、東京アナウンス学院などで講師を担当。著書『ウケる!トーク術』がロングセラー中。
 
アサヒビール 中国広域支社営業
伊藤大悟
1979年、奈良県生まれ。同志社大学文学部卒業後、2003年入社。中国地区最大手量販チェーンを担当するエース社員。状況が悪くなるほどに底力を発揮する広島の予算必達請負人。
(小原孝博、滑 恵介=撮影)
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