健保組合の8割が赤字に陥っている

しかし、全国に約1400を数える健保組合の現状は、単年度の財政収支で全体の8割が赤字に陥っている。さらに保険料率で協会けんぽの10%の水準を既に上回る健保組合も100を超えるなど、その多くがすでに財政難に窮している。さらなる負担増は、健保組合に保険料率を引き上げるか、解散して協会けんぽに鞍替えるかを迫りかねない。

安倍政権は、デフレ脱却を目指す上で、今年の春闘で企業に賃上げを迫る異例の政治介入に踏み切り、大企業を中心にベースアップ(ベア)を含む賃上げにつなげた。さらに、この10月に再開した政府による政労使会議でも、安倍首相自ら来春闘での賃上げを再び経営者側に迫ったばかりだ。これには、今年の春闘での賃上げが4月の消費増税で帳消しとなるなか、再度の政治介入で賃上げにつなげ、「経済の好循環」をなんとしても実現させたい安倍政権の強い意向が透けてくる。

しかし、今回の健保制度見直しにより保険料の引き上げが避けられなければ、企業の負担は増え、会社員らの手取り収入も目減りする元の木阿弥となり、経済の好循環の実現は遠のいてしまう。この事態には経済界もさすがに反発を強め、経団連など経済三団体が足並みをそろえ、10月23日に「社会保険料の増加で、安倍政権が目指す経済の好循環が頓挫しかねない」との提言をまとめ、反対を表明したほどだ。

高齢者医療をめぐっては、これまでもほころびを繕うだけで、抜本見直しが見送られてきた。今回の厚労省案にしても、健保組合に加入していない後期高齢者を健保組合などが肩代わりする付け焼き刃の域は出ておらず、保険料を負担する現役世代にとって納得できない仕組みとなっている。確かなことは、12月に迫る来年10月に予定される消費税率再引き上げの決断ともども国民の痛みを伴う点であり、まさに経済の好循環の実現を目指す安倍政権の真価が問われる正念場だ。

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