もうひとつ恩田さんが基本として知っておいてほしいと語るのが、電話を待たせるときのひと言だ。

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ビジネス電話の「プロ基準」

通常、電話のコールは2秒間呼び出し音が鳴り、1秒間休む。つまり1回3秒のサイクルになっている。恩田さんによれば、11秒以上電話で待たされると苛立つという統計があるという。つまり3回目のコールまでに受話器を取らなければ、電話を切る人の割合が増えるのだ。3コール以上の場合は「大変お待たせいたしました」と電話に出るのがマナーだという。

また相手を待たせる時間で言葉を変える必要がある。30秒待たせる場合は「少々お待ちください」。5分以内なら「確認後、折り返します」……。

「ビジネスの電話では待つほうが待たされるほうよりも6倍も時間を長く感じています。忙しい現代なら20秒間が限界という人もいます。時代によっても時間の感覚が変わるんです」

電話応対は、対面での会話以上に話し方や言葉づかい、知識、思いやりなど様々な能力がもとめられる。恩田さんは「経験を積むしかない」と語りながらも、「慣れ」についてこう指摘する。

「マンネリ化するとどうしても話し方が機械的になってきます。電話の相手は見えませんからなおさら想像力が失われてしまいます。姿や顔が見えないからこそ、話し方や言葉づかいが重要なのですが……。そんなとき、私はコールセンターでお客さまに顔や姿が見えなくてもネクタイを締めて電話を受けなさい、と指導しています。ラフな格好からはふだんの言葉しか出てきません。丁寧な言葉づかいをするには身だしなみも大切なのです」

受発信ともにコールセンターでは電話応対で相手が「ありがとう」というひと言を口にしたかどうかが成否の指標になると恩田さんはいう。

もしも会社への道順を尋ねる電話を受けたとする。問い合わせに答えて道案内をすれば、役目は終わりだ。

だが、そこで想像力を働かせてみる。会社に来る要件は何か。誰と会うのか。いつ来るのか……。そうやって見えない相手を想像しながら膨らませていく会話が、「ありがとう」という感謝のひと言を引き出すのだ。

「事始めとしてのマニュアルで学ぶ必要があるのはいうまでもありません。でも、本当に大切なことはマニュアルだけではカバーできないんです。とくに相手が見えない電話応対では、想像力を働かせて、相手が何を望んでいるのか、臨機応変にやり取りしなければならないのです」

ドゥファイン社長 恩田昭子
秋田県生まれ。日本電信電話公社を経て、1990年に、ドゥファインを設立。日本電信電話ユーザ協会主催の「電話応対コンクール」では2009年度の審査委員長を務めた。著書に『相手の心をしっかりつかむプロフェッショナル電話力』などがある。
(佐藤 類=撮影)
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