私が残念に思っていることの1つに、日本人は欧米のライフスタイルを積極的に受け入れてきたのに、オフィスや自宅にアートを飾るという点が抜け落ちているということです。元来、日本には床の間という季節に合わせて風流にアートを飾るスペースがあったはずなのに、現代の日本の住まいからは消えてしまいました。たとえアートを飾っていても、バブルをひきずった印象派や後期印象派の名画であったり、安っぽいポスターやリトグラフであったりします。

六本木にある、日本を代表するコミュニケーション学の権威のオフィスにお邪魔したことがあります。机のうしろの壁には、ラウル・デュフィの小品が掛けられていました。ニースの海岸風景などで知られるデュフィの絵は最先端を行くその先生のイメージと合わず、ちょっとがっかりだったのですが、さらに印象を悪くしたのは、オフィスの雰囲気とまったく合わない装飾を施した金縁の額。その額1つで、どこのギャラリーが扱ったか、また、この方が高い買い物をされたであろうことが一目瞭然でした。

社長室や役員室は、企業イメージのもっとも強い印象を残す場所。ここに例えば、若い日本人の現代アーティストの作品が飾ってあって、社長自らがお客様に解説したなら、どんなに企業のイメージがアップすることでしょう。欧米のオフィスには、アメリカならアメリカ人の、フランスならばフランス人の作家による作品が飾ってあり、そのまま企業の社会貢献やパトロネージュ活動と強く結びついているのです。

最近、自宅に現代アートを飾り、「コレクターになる!」と宣言した友人になぜ現代アートなのかと、聞いてみました。彼女の答えは「やっぱり、アーティストの顔が見えるから」というものでした。作り手に会えて、創作の意味や苦労話を聞け、知り合いになって、たまには一緒に食事が出来る楽しみだってある。ピカソやウオーホルには会えないけれども、現代アーティストなら会えるチャンスがあります。彼女はまた、「ブランドバッグや宝石はとても魅力的だったけれど、たくさん集めても何も起こらない。若いアーティストの作品ならば、自分が買うことによって少しでも応援が出来ることに気づいた。もっと早くからやっていれば良かった。ファッションにはすでに数百万円使ったもの」とも話していました。