どんどん感染する、どんどん人が死ぬ

死者が4000人を超え、米国やスペインでも二次感染が確認されたエボラ出血熱。いよいよ日本上陸か――。国際感染症対策室の医長・加藤康幸氏は、WHOのミッションでエボラ出血熱の発生地である西アフリカを今年2度訪問した。現地では何が起きているのか。日本の対策は万全か。日本で「ウイルス性出血熱―診療の手引き」をまとめた加藤氏に聞いた。
医師 加藤康幸(かとう・やすゆき)
国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長。1969年生まれ。千葉大学医学部卒、米ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了。都立病院勤務などを経て現職。日本で数少ない「1類感染症」(最も危険性が高い感染症)の専門家。

エボラ出血熱はリベリア、シエラレオネ、ギニアを中心に感染者が増えています。私は5月と8月の2回、リベリアの首都モンロビアを訪れました。

5月の時点ではほとんど患者はいませんでしたが、8月に行ったときには急速に増えていました。しかし私の到着時、感染者を治療する施設ETU(Ebola Treatment Unit)は1つしか稼働しておらず、ベッド数は25床のみ。すでにキャパシティを超えていました。入院が必要な患者も60人、90人という加速度的なペースで増え続けていました。

症状は体温が39度を超えるような高い熱が一般的です。最初の1週間高熱が続き、嘔吐や下痢、腹痛もよくあります。2週目に入ると症状がより顕著になり、下痢や嘔吐のなかに血液が混じることもあります。生死を分けるのは発症から、10日から2週間程度の間です。その期間を耐えることができるかが問題です。

そもそもアフリカ大陸には様々な感染症が蔓延しています。リベリアやギニアなど西アフリカではマラリアが多く、診療所には日々マラリア患者が来ます。ただ、エボラのように短期間で人から人にうつり、医療従事者まで亡くなってしまうような病気はほとんどなく、私自身もこれまで経験したことがありません。

エボラウイルスが人に感染する経路は主に粘膜です。目や口の粘膜のほか、傷口などからも入ります。感染者が集中している3カ国は、経済指数でいえばアフリカでも下から数えて何番目かの国々。居住空間では、狭い部屋に大勢の人が生活をしています。水洗トイレはありませんから、患者が下痢や嘔吐をしても水で洗い流せるわけではないのです。どうしても衛生面での問題がある。

医療機関にも同じことがいえます。5月に訪問したとき、各地の病院を視察してわかったことは、手洗い場が少ないことです。あっても石鹸がない。手を拭くタオルもいろんな人が拭いたものがずっとそのままになっているので清潔ではありません。

このような状況で病院内にエボラが入ってきたら間違いなく拡がります。5月に現地入りしたときは医療環境の改善に力を入れようとしたのですが、物資も医療従事者の意識も、現状に追いつけませんでした。8月の再訪問時にはここまで拡がるものかというほど、感染が拡がっていたのです。