「1日最大11時間の保育」を買うわけではない

最後に、園と保護者の相互理解のために大事なことを説明しておきます。

「保育標準時間」は1日最大11時間、「保育短時間」は1日最大8時間の保育を利用できると説明しましたが、実は、2区分とも保育日は月曜日~土曜日の6日間を最大としています。

ただし、制度のとりまとめのとき、こんな附帯意見がつけられています。

「新たな基準に基づく保育の実施に当たっては、保護者が、その就労実態等に応じ、子どもの健全な育成を図る観点から必要な範囲で利用できるようにすることが制度の趣旨であることを周知し、共通認識とすること」

つまり、仕事が終わったらお迎えをする、土曜日に仕事がなく特に必要がなければ子どもも保育園をお休みするという、これまでと同じお約束でお願いしますということです。

この附帯意見は、各家庭で子どもとの時間を大切にすべきという考え方を示していますが、もうひとつ、給付費(保育園が受け取る公費)は全員が最大利用可能時間をフルに利用するという想定にはなっておらず、朝夕の子どもの少ない時間や土曜日は保育士のローテーションでカバーしなければならないという運営上の事情も背景にあります。

2区分が設定されて2段階の保育料が示されると、保護者は、「週6日・11時間分の保育料を払っている」と思いたくなりますが、そうではないということです。保護者と園のトラブルをたくさん見てきた私は、上の共通認識は新制度とは関係なく、重要なものだと思っています。

それにしてもこの保育時間の2区分化、実施段階になった今、行政にとっても、事業者にとっても、保護者にとっても、ほとんどいいことがないということが明らかになってきたように見えます。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『働くママ&パパの子育て110の知恵』(保育園を考える親の会編、医学通信社)ほか多数。