大切に思う人だから、虐待する

実は……と相談したところが意外な話をされました。

そのケアマネージャーはお祖父さんの介護をした経験があるのだそうですが、その時は冷静な対応ができず、怒りをぶつけたこともあったというのです。仕事で担当した家庭には職業意識もあって冷静で心のこもった対応ができる。でも、そんな人も肉親が相手だと冷静になれないのです。

今、振り返ると、その心理も分かるような気がします。肉親なら要介護者が元気な時を知っている。さまざまな会話や触れ合いがあり心が通じあっていたわけです。そんな人が、まともな会話さえできなくなり、ケースによっては自分のことも分からなくなってしまう。そのことにショックを受けるのです。

また、肉親としての情がある分、できるだけのことはしようと頑張ります。しかし相手はその頑張りを無にしてしまうようなことさえする。介護の負担で疲れている時に、そんな対応をされたら、「認知症なんだから仕方がない」とは思っていても、感情が抑えきれなくなるのだと思います。

ただ、ケアマネージャーにその話を聞いた後、気が楽になりました。

「自分だけではないのだ」と。そして気が楽になったことによって事態を客観視できるようになったのか、肩の力が抜けて少々のことでは怒ることはなくなりました。

私にとってはそのような効果がありましたが、介護で精神的に追い込まれたような時は、ケアマネージャーなどのその道の専門家、あるいは介護経験のある人などに相談し、話を聞いてもらうのがいいと思います。有効な対処法がなかったとしても、話をすることでガス抜きにはなりますから。

また、介護事情についてたびたび取材をさせてもらっている介護用品レンタル会社のIさんにも感情のコントロールに聞いてみたところ、「頑張り過ぎないこと」という答えが返ってきました。

「真剣に介護に取り組んでいる人ほど精神的に疲れ切り、なかには介護ウツになってしまうケースもあります。そうなったら肝心の介護さえできなくなる。長い間、大きな問題もなく介護を続けている人は、適当に手を抜いています。要介護者に真剣に向き合う日々を送っていたら、肉体的にも精神的にもとてももちません」

しかし、「手を抜け」といわれても、なかなか抜けるものではないことも事実。どこまですれば一定の介護ができて自分自身も納得がいくかを考え、自分なりの境界線をつくることが介護時の感情のコントロールには大切なのかもしれません。