1日を6分割する「仕事の時間割」

同様の例が続く。課題を出し、みんなで議論し、決めた改革案を全員で進める。【1】(http://president.jp/articles/-/13692)で触れたように、そういう「全体最適」を追求する仕事の進め方が好きで、プリマスでも根付いていく。工場は、10カ月で黒字へ転換した。

「致數輿無輿」(數輿を致さんとすれば輿よ無し)――車の部分、部分をいくら調べても、車全体の姿はわからない、との意味だ。中国の古典『老子』にある言葉で、個々の問題にとどまっていては、全体のあるべき姿は描けない、と説く。常に「部分最適」よりも「全体最適」を求める田中流は、この教えと重なる。

田中流の土台には「仕事の時間割」がある。手法が固まったのは30代前半。本社の資材部で、後輩たちが何人もできたころだ。

(1)早朝に起き、新聞の朝刊やテレビをみて、最新情報を持って出社する(2)始業までに「今日は何をやるか」を決める(3)午前中に簡単な仕事は終わらせる(4)午後は大事な会議資料をつくる(5)3時からは後輩の仕事をチェックする(6)終業の午後5時半に退社すると、1日を6つの時間帯に分けた。残業は、基本的にしない。退社後は、後輩と1杯やりながら天下国家から仕事の進め方まで論じ合い、ときにはさっと帰宅し、家族と食事した。

「時間割」に併せて、机の上に書類箱を2つ置いた。一つには、自ら行動をとらねばならない件。もう一つには、行動をとった後、結果を待っている件を入れる。毎朝、両方のすべてに目を通し、行動をとらなければいけないものに優先順位を付け、簡単に片付くものから終わらせる。これは、いまも変わらない。毎朝、夜間に入ったeメールを読んでから出社し、複数の書類箱も置いてある。

社長になって、「これからは、横串を刺していく」と宣言した。実は、入社当時から、社内やグループ内の「縦割りの壁」を感じてきた。事業部や社内カンパニーなど縦の組織力で取り組むと、仕事が速く進むなどの長所もある。だが、技術の融合や顧客の開拓などで失ったものも大きい、と思う。

縦の壁を崩すには、横串を通すしかない。まず、本社主導で技術の融合から始めた。東芝は、5万件もの特許を持つ。宇宙開発の技術が自動車のエアバッグに使われ、軍事用の技術からインターネットが生まれたように、先端技術の波及範囲は広い。でも、一つの特許や技術でできることは限られる。それらを組み合わせてこそ、全く違うものも生まれる。

昨秋、10年ぶりの組織再編を実施し、各部門から数十人を集めた「横串事業」の推進部隊をつくった。社内カンパニーや研究所にも、同様の部隊ができる。「組織を変えて、景色を変える」の狙いだ。景色を変えれば、意識も変わる。カギは意識で、それが変われば、あとは、回っていく。社長になって1年余り、「市場は無限にあるぞ」と言い続けている。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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