ビジネスの場面では、作家のような文章力はいらない。要点をまとめる論理力。数字を駆使した説得力。読み手の興味をかきたてるコピーライター的センス……。達人によるビフォーアフターで、「通る文書」のつくり方を身につけよう。
平塚エージェンシー所長・武蔵野学院大学客員教授 平塚俊樹氏

私はある自動車用品メーカーで営業兼クレーム処理担当を10年間務めた。そこで学んだ対応の鉄則は「100%お客様のほうを向く」ということである。

多くの企業はクレーム処理を専門の別会社や派遣社員で構成された部署に丸投げしている。そして、現場の営業担当と違って取引先やエンドユーザーの顔を知らない彼らは、法律に基づいた杓子定規な対応に終始し、顧客の怒りに油を注ぐ事態になっている。

たとえば、自社製品を卸した先の大手流通チェーンにお客様からクレームが入ったような場合、対応を誤ると全取引が停止になることがある。何より恐ろしいのはインターネット。自社の悪評が流れ、会社のイメージダウンとともに売り上げが激減することもありえる。とにもかくにもクレームを受けたら、1秒でも早く対応する。「お客様のお怒りは私もよくわかります」と伝えて相手の気持ちを静める。ただし、あくまでも担当者の個人的な意見としてであり、製品に欠陥があったことを認めるような発言は一切してはいけない。安易に詫び状という形で自社の非を認める文書を残すことなど論外である。

それを証拠として言質をとられ、多額の賠償金を要求されたり、PL法(製造物責任法)訴訟に発展する可能性があるからだ。さらに最近のクレームは暴力を伴うストーカーまがいのものも多いので要注意である。会社側の担当者が自分の味方でいてくれることが相手に伝われば、信頼関係が生まれる。通常、ここで初めて、法的な処理へ持っていくのだが、製品の欠陥の立証責任はユーザー側にあり、不可能に近いことを丁寧に説明する。もともと、相手側も自社のファンであったからこそ、その製品を購入してくれたはず。このような順を追っていけば、最後には怒りの矛先を収めてくれるものだ。

そして無事、和解まで至ったところで見舞金とともに出すのが和解合意書、すなわち「詫び状」だ。ここでもクレームの具体的な事象が特定されるような表現は避け、お客様に不快な思いをさせてしまったことへの謝罪をシンプルに書く。そして、今後このことでお互いの間に債権・債務が生じないことを最後に書き添えておく。ここでいう「詫び状」とは、あくまで和解の合意文書なのである。