“無限に”努力する正社員“有限”の非正規社員

ここで重要なのは、そうした区別の結果として、ある一定の働き方の期待が、非正規社員と正社員にはあることである。正社員は、会社のために体、時間、能力など、すべてを捧げ、やや誇張して言うと“無限に”努力する存在。逆に、非正規社員は、与えられた仕事の範囲だけでそうした資源を提供するいわば、“有限社員”。

そうした働き方の区別がなんとなくあって、それが正社員と非正規社員を分けている。そして、それぞれの役割を担う、正社員と非正規社員の本人たちもそうした区別を理解し、それに従った行動をとるのである。さらに、企業もこうしたステレオタイプに基づいて、人事の仕組みをつくる。

そのために、単に雇用契約の違いであった正社員と非正規社員の違いが、働き方の違い、職務行動の違い、そして、それを取り囲む人事管理のあり方の違いにまで浸透してくる。その結果が、正社員と非正規社員の大きな格差となって表れるのである。賃金格差だけではない。能力開発の機会から、社員食堂での日替わり定食の値段まで。

また、正社員に関する人材マネジメントは、ひとつのパッケージとして、長期雇用長期の評価と育成その過程で求められるトータルコミットメントと繋がって、(女性・男性を問わず)ワークライフバランスを求める社員にマイナスのプレッシャーを与え、さらに、若者にとって、魅力のない働き方を提供する。私は多くの若者が嫌がっているのは、年功序列による閉塞感ではなく、成果主義の下で、長期に競争することに対する漠然とした嫌悪と不安なのではないかと思う。年功序列を嫌って、早く頭角を現したいために辞職する若者は少数だし、また社会にとっては望ましいとも考えられる。

つまり、多くの問題の根源に、正社員の働き方や、それを前提とした人材マネジメントのあり方があるのである。

そろそろ、正社員の働き方や人材マネジメントのあり方を変えよう。そして、正社員であり続けるために、雇用保証と高い賃金の引き換えに、極めて高い会社忠誠心と長時間労働を求められるのではない働き方が必要だ。そうでないと、先に述べた幾つかの課題だけではなく、例を挙げれば、高齢者の継続雇用を含めて、多くの課題への根本的な解決は望めないだろう。

もちろん、格差問題についていえば、そのことが直接、非正規社員の働き方や人材マネジメントのあり方の変化に繋がるわけではない。だが、話題になっている正社員―非正規社員の「均衡処遇」という議論は、いずれは時給を幾らにするのか、という議論を超えて、まさに非正規社員に関する給与の決め方、人材育成の仕方、仕事の与え方、というところまで踏みこまざるをえない。そのとき、正社員の議論をしないわけにはいかないだろう。