ベテランママの予想外のおえつ

伊藤徳馬 
神奈川県茅ヶ崎市こども育成部こども育成相談課職員。子どもの虐待担当として、米国生まれのプログラムを日本向けに改訂した「神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング(通称CSP)」をもとに、地元市民を対象とする、怒鳴らない子育て練習講座「そだれん」を2009年から開始。

「私をふくめて日本人は、『怒る』と『叱る』の境界線が曖昧です。30・40代の親も、子供の頃に叩かれて育っていて、『叩くのも躾のうち』という子育てしか知りませんから」

神奈川県茅ヶ崎市職員として、09年から怒鳴らない子育て練習講座「そだれん」を主宰する、伊藤徳馬氏はそう指摘する。同講座は「ホメる子育て講座」とも呼ばれる。主に3、4歳児から小学校低学年までの子供を持つ母親が対象。育児経験のない記者も4人の母親に交じり、伊藤氏が子供役を演じる“徳ちゃん”相手の練習に参加させてもらった。たとえば、弟が買ってもらった仮面ライダー人形を、4歳の兄が弟に無断で遊んでいる設定でパパ役になる。

「徳ちゃん、弟のオモチャをいったん置きなさい」

「嫌だ」

「新しい人形で遊びたいのはわかるよ。でも弟のものだから、ずっと遊んでいないで一度置きなさい」

「弟が今いないからいいじゃん!」

「置きなさい」

「嫌だったら、嫌~だ。パパ、うるさいから会社に行ってきなよ」

「……聞き分けのない子は、パパ、大っ嫌いだ!」(大人相手なのに我慢できず、ここでキレてしまった)

先輩ママたちが失笑する。感じの悪い“徳ちゃん”から市職員に戻った伊藤氏からもダメ出しされた。

「子供の土俵に乗っかって怒ってもろくなことはないです。まず『弟にひと言断ってから遊んでほしい』と、具体的に希望する行動を伝えたうえで、悪い行動には悪い結果を与えます。ダダこねに注目するなら、『パパにダダをこねたことを謝って』と伝え、子供がちゃんと謝れば一度ほめてあげましょう」

子供との密着生活で、この延々たる反復を強いられる母親のいら立ちの一端に、記者も初めて想像力を働かせることができた。そんなダメ偽パパぶりを数回披露しながら通った同講座最終回で、子育ての難しさなどを、母親たちから聞かせてもらっていたときだった。