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図2 黒田官兵衛ローマ字印書状(福岡市博物館蔵)。キリスト教の洗礼名シメオン・ジョスイ(Simeon Josui)の印字が見える(左から2行目最下段)

図2の文書は、慶長8(1603)年ごろとみられる最晩年の書簡で、部下に鯨肉の調達を命じたもののようです。

官兵衛は、戦国武将としては字が達者なほうで、かなり高い技量を持っています。よく勉強した知的な人だったろうという印象を受けます。

先に述べたリーダータイプの「強連綿型」と同時に、非常に繊細で優美な志向を表す「細連綿型」が見られます(図1【7】【8】)。ひらがなに見られる細い線がそれです。

この両方を兼ね備えた人は、自分の才覚をひけらかすことなく、状況に合わせて自分の才覚を発揮できる柔軟さがあり、加えて目的意識の高さも窺うことができます。

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図3 主君・豊臣秀吉の筆跡 歴史に名を残す人物の書は、達筆というよりどれも自信に満ち、個性的だ。官兵衛の主君・豊臣秀吉の書に表れる「大弧型」は「太閤型」とも呼ばれ、模して書くと気も明るくなる。

その主・秀吉の書(図3参照)には、派手好みでいささか傍若無人な傾向も表れていますが、官兵衛の書にはそれがありません。微妙な状況下でも、あきらめずに淡々と目的達成に向かう、熟慮断行型の性格が見てとれます。また、縦線を切って線を交差させる「刃物運型」が見られない(図1【1】)ので、本質的に争いごとや殺傷沙汰を好まぬ人だったのではないでしょうか。「心」や縦に異様に長い「参」の字(図2【9】)は、通常見られない崩し方ですが、こうした独特の「変形字型」は、突拍子もないことを考えつく異能者の特徴です。

堅実な実務家ではあるけれど、他人と異なる発想・行動が魅力と受け取られ、常に衆目を集める。そんな人物像を、この筆跡からは想像することができます。

筆跡診断は、自身を知り、他者を知るためのものです。自身の性格行動がわかれば、不足部分を補う方策も考えられます。同様に他者の筆跡から性格傾向がわかれば、その人と関わる際にどこに気遣えばよいかがわかってきます。

また、職場のリーダーは信長や秀吉のタイプとは限りません。上司が堅実派であれば、参謀格に求められるのは、多少の危険を顧みず、新しいことに挑戦する人材でしょう。あるいは上司が少々無鉄砲であれば、参謀格となるのは、部下をとりまとめ、安心して業務を任せられる人材であるかもしれません。

筆跡診断は、職場の円滑な補佐関係をつくり出していくことにも役立てられます。また、自身を磨くうえで、こうなりたいと思う人の筆跡を真似ることで、その性格行動に近づいていくことも可能です。72種の特徴のいずれかを、身につくまで繰り返し描くと効果的です。

森岡 恒舟(もりおか・こうしゅう)
日本筆跡診断士協会 会長、相藝会 書道教育学院 学院長。
1933年生まれ。東京大学文学部卒業。94年日本グラフォログ協会(現日本筆跡診断士協会)を設立し筆跡診断士育成。警視庁嘱託筆跡鑑定人として実績多数。
(構成=高橋盛男 撮影=小原孝博)
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