「金正恩の本気度が伝わってきた。国家安全保衛部が調査の中心になったのだから」――北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査について、日本のある外交官はこう語ったという。しかし、本当にそうなのだろうか?

国家安全保衛部は、体制への不満や反体制的な思想を持った政治犯を取り締まる秘密警察だ。徐大河(ソデハ)副部長が特別調査委員会のトップに就いたから、「徹底した調査が行われる」と日本側は判断しているようだ。

しかし、日本人拉致を実行したのは国家安全保衛部ではなく、朝鮮労働党(以下、労働党)直属の「作戦部」および「三五号室」が中心となっている。実は、これらの組織を調査する権限は国家安全保衛部にはない。そのうえ、拉致被害者を把握しているのは、警察である人民保安部である。具体的には、住民個人の身上に関する秘密資料を専門的に取り扱う「住民登録課」が把握している可能性が高い。

そもそも、労働党直属の組織ではない国家安全保衛部に労働党の犯罪を調査する権限はない。北朝鮮では労働党の命令ですべてが動くからだ。

金正恩が本気で日本人拉致について調査を行う気なら、労働党の組織を含む国家のすべての機関に対して強大な権限を有している「労働党組織指導部」に調査を行わせているだろう。

北朝鮮側が調査報告を日本側に提出しないのは、経済制裁解除などの見返りの獲得を目論んでいるというよりも、調査を進めようがないため調査結果を出せないのだろう。

では、日本はどうしたらいいのか? まず、権限のない国家安全保衛部が調査を行うのではなく、労働党組織指導部が調査を行うよう要求することだろう。しかし、国家安全保衛部のナンバー2が特別調査委員会のトップになっているうちは、それも無理であろう。

特別調査委員会のトップの肩書だけを見て、金正恩が日本人拉致問題を解決する気がないと判断するのは早計かもしれない。しかし、国家安全保衛部が日本人拉致を実行した労働党組織の調査を行うことができないという現実を考慮すると、日本側が納得できる調査結果が出る可能性は極めて低そうだ。