“神気を帯びた秀吉”を演出

世界一美しい不戦・不焼の国宝・姫路城。現在、姫路城では大天守の保存修理工事が進められている(2015年3月に終了予定)。官兵衛は天正8(1580)年の三木城落城後、姫路城を中国攻めの拠点にと秀吉に明け渡した。

姫路城に入った秀吉はまず風呂に入り、次々と指示を与え、金庫を空っぽにして金をばらまき、部下の士気を高める一方で、大量の兵糧を配して武器など荷駄部隊を海上から摂津へあげる手配をする。この采配は大将がやることではなく兵站(後勤部)の仕事だが、下積みが長いゆえに細かいことまで秀吉は気がつくのである。殿軍を務めて姫路にはいった官兵衞は直ちに秀吉の帷幄に駆けつけ、こまかな兵站の指示を補強したことはいうまでもない。

こうした詳細な兵站の手当て、その鮮やかな指示、このときの秀吉には神気さえ帯びている。それを演出したのも官兵衞の力量だが、生来の陽気で殺戮を好まない太陽の子という伝説がこの先に生きた。夥しい人々が秀吉についてきたのだ。むろん多くは賞金目当てで、士官の糸口を求めた者もいれば野伏からはい上がろうとした豪族もいた。

インテリジェンスに欠かせないのは、このような伝説づくり、都合のいいイメージの造形である。勝機が宿ったという印象を拡大し、士気を高めるのである。それも迅速におこなわなければいけない。

物語や小説では表に出ないが、武将の世界における情報戦争の実態は、その表裏を知れば知るほど、現代ビジネスマンにとって大いなる教訓となる。その中でも黒田官兵衛の情報戦略は多彩であり、いまも輝きを放っている。

宮崎正弘
1946年、石川県金沢市生まれ。評論家、作家。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌「浪曼」企画室長を経て、貿易会社を経営。83年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇デビュー。近著に『黒田官兵衛の情報学(インテリジェンス)』。
(PIXTA=写真 ライヴ・アート=図版作成)
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