並木裕太(なみき・ゆうた) 
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部、ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得。2000年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社後、最年少で役員に就任。09年にフィールドマネジメントを設立。日本航空、ソニー、楽天などのステップゼロ(経営コンサルティング)を務める。

起業のイメージといえば借金を背負って乾坤一擲の大勝負をかけるか、天才的なアイデアの持ち主が社会に抗いながらTシャツ、短パン姿でチャレンジする、といった姿だろうか。いずれにせよハードルは高く成功確率は低く、起業率は低調となるわけだ。

ところが本書で紹介されている起業家たちは、そうした起業家像とは一線を画す。たとえば起業しながらパートタイムでコンサルタントをし、失敗した場合の生活やキャリアの心配を回避しながら、新しい価値を生み出していっているのである。

「『起業は天才や奇才のためのもの』説が世の中には流れていますよね。でも、そんなものは嘘っぱちだとまず伝えたかった」

著者の並木裕太氏はそう語る。もちろん簡単ではないが会社で頑張り出世できる能力を持った人なら、ちゃんと機会をつかまえればうまくいくんだと。

本書では米国の最新動向や日本の若き起業家たちのインタビューなどを紹介しながら、日本でベンチャームーブメントを起こす必要性が熱く語られていく。

その端々には「起業したい」と言いつつ、なかなかしない若者たちや、空回りする国のベンチャー施策に対する並木氏のいらだちが見え隠れする。「起業したいと言ってしない若者たちの言い訳はだいたい『アイデアがない』『お金がない』。でも日本のベンチャーシーンでは、アイデアとお金はもはやコモディティです。足りないのは起業する人であり、この本で訴えたかったのは『足りないのは君なんだ』ということです」

最近、MBA留学から帰国した並木氏の後輩は、アメリカ人や中国人、インド人から「おまえは日本人でいいな」と言われたという。その理由は「お金があるのに遅れているマーケットにいるから」である。そこに海外でうまくいったモデルを適用すれば、成功する確率は高い。

起業は難しいというイメージを覆すだけでなく、実は起業のチャンスは私たちの足元にいくつも転がっていると気付かせてくれる一冊である。

(二石トモキ=撮影)
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