機を見るに敏。蔵の金でばくち

幸運の神様には後ろ髪がない。だから、「来た!」と思ったらパッと前髪を掴まないといけない。後から掴もうとしてもツルッと手が滑ってもう掴めない。運を取り逃す、といった意味がある。

「なぜ、掴みそこねてしまうのか。おそらくチャンスというのは、最初はピンチの顔をして現れるからだと私は思います。『あ、チャンスだ』と最初からわかれば、誰でも掴みます。でも、ピンチの顔をしてやってきて、目の前を通り過ぎ去っていこうとするときに『本当はチャンスだったんだけどね』みたいな顔を見せるのだと思う。そのときに掴もうとしても、もう遅い。官兵衛には、そんな好機を掴み、自らそれに乗り、また家臣たちもうまく乗せることのできるセンスが備わっていたのでしょう」(火坂さん)

「軍(いくさ)は死生の境なれば、分別するほど大義の合戦はなりがたきものなり」(古談実録)

これは、官兵衛が子の長政に与えた遺言中の遺言といわれている。そもそも合戦は死ぬか生きるかの分かれ目で、人知の及ばぬところがあるから、ぐちぐちと思い悩むほど大事な合戦をすることはできない。そんな官兵衛の信念の言葉だ。

「官兵衛は言っています。『もし、あの関ヶ原の戦いの決着が長引いたならば、我はたった一人の跡継ぎのおまえの命など歯牙にもかけず、攻めあがって天下を狙う大合戦を試みただろう』と。そしてさらに続けて、『おまえは賢く、先の手が見えすぎるため、こうした博奕(ばくえき)のごとき大合戦はできない』と子・長政の短所も指摘しています」(火坂さん)

芸術家的な野心家とはいえ、そうした熱い魂の持ち主についていこうという家臣が多かったのは十分に頷ける。