いつまでも子供の心と
ドキドキを忘れない

──現状に満足せず、より良い表現を追求するお二人の原動力は一体何でしょうか。

【篠山】新しいもの、未知のものに出会った瞬間の驚きや怖さに対して、正直であることが大事です。知ったかぶっていても、いい写真は絶対に撮れません。いつも新しいものにドキドキする心を持っていたいですね。

【小池】篠山さんがすごいのは、写真家として圧倒的なキャリアを持っているのに、ベテランの枠におさまらず、感受性豊かに撮り続けていることだと思うんです。芸術家でも経営者でも、地位や名誉を有してなお、自分を活性化し続けられる人はそういません。

【篠山】僕の原動力は、時代の新しいものを見たいという欲望なんです。常にそれを満たすのは簡単ではないけれど、目の前の被写体をうまく写真が撮れずにもがいていると、ふいに写真の神様が降りたように、自分でも驚くような作品が撮れる時があるんです。

【小池】舞台でもやはり、役者や演出家、美術などさまざまなスタッフの思いが一つの束になり、巨大な雷のような衝撃が走って、思いがけない表現が生み出される。そんな瞬間があります。同じことを繰り返していれば安心ですが、いつしかパターン化してしまう。たとえ厳しくても、自己破壊と創造を繰り返し、常に自分をリニューアルしなければと肝に銘じています。

【篠山】写真も楽しいことばかりじゃないけれど、思いどおりにならないことがあるから、表現することは面白い。障壁や制約こそ、新しいものを生み出すエネルギーになっていますね。

【小池】確かに、振り返れば何とか困難を乗り越えようとやってきたことが、個性につながっていると感じます。特に最近は、もめ事を解決しながら、大勢で舞台をつくることが面白いと思えるようになりました(笑)。その意味では、表現が完成した「プロ」にはなり切らない方がいいのかもしれませんね。

【篠山】巨匠だなんて言われない方がいいですよ。子供でいなきゃ。僕の場合は、いつまでもカメラ小僧でいるのがちょうどいいんです。

【小池】確かに。演出家も、未成熟な役者たちと一緒に仕事をするなかで、新たな発見をすることがよくあります。若い人と共に汗をかいて、死ぬほどの思いで工夫していると、そこにオリジナリティが出てくる。いつでも悩み、新しい表現に挑戦する姿勢を忘れないでいたいですね。

【篠山】本当に。今度の『エリザベート』も期待していますよ。

【小池】ありがとうございます。期待に応えられるようにがんばります。

撮影場所:ザ・キャピトルホテル 東急