どんなに時間がかかっても相手の話を聞く

そうした提案をする際も含めて、3年間の開発期間中に徹底して心がけたのは、とにかく相手が納得するまで話を聞くということですね。

クルマの開発は厳しい納期やコストの制約があり、その中で現場のエンジニアは常にフラストレーションをためていくものです。何かを前に進めようとするとき、「とにかく来週、月曜日までだから」と話を打ち切ってしまうのは簡単ですが、それではやっぱり関係がギクシャクしてしまう。だから、まずはどんなに時間がかかっても相手の思いを吐き出してもらおう、と最初に決めたんです。不満に思っていることを空っぽになるまで吐き出してもらって、その空っぽになったところにこちらの言いたいことを伝えるようにしよう、って。

とにかく現場で何が起きているのかを聞いて、私ができることがあれば自分が行動する。部品が必要なら、夜遅くても部品のありそうなところに連絡して探す、というように。

夕方に話を聞き始めて、気付いたら夜になっていたということも多かったのですが、その中でエンジニアとの信頼関係が少しずつ積み重ねていけたことが結果的には良かったですね。そうした信頼関係を築ける人たちを1人でも増やしていくことが、困難にぶつかったときに乗り越えるための力になっていく――デミオの開発はそのことを実感する日々でもありました。

女性であることを忘れないで

ちなみに私はもうすぐ40歳を迎えるのですが、その意味では若い女性のエンジニアについて2つ伝えたいことがあるんです。

1つは自分の夢をしっかりと思い描いて、技術や知識をがむしゃらに身に付けて欲しいということ。

それからもう1つは、女性であることを忘れないで欲しいと思うんです。

いまや職場で女性・男性の区別はほとんどないとはいえ、女性エンジニアの中には一生懸命にやろうとすればするほど、言動や所作振る舞いまで男性エンジニアの真似をしてしまう人もいるんです。ときにはスカートをはいてクルマを評価しないと、女性ドライバーの気持ちが分からなくなってしまうかもしれません。シートの開発の時のエピソードなどはまさにその一つですね。

マツダ 車両開発本部 主幹 竹内 都美子(たけうち・とみこ)
1974年広島県出身。大学卒業後、97年マツダ(株)入社、電子技術開発部ワイヤーハーネス設計Gr.配属。99年開発・評価ドライバーとして評価専門チームに異動し、自他銘柄車の総合商品性評価を担当。06年車両開発本部へ異動、新世代商品群の技術開発を担当。2011年より現職。

稲泉 連=構成 向井 渉=撮影