マツダで女性初の車種担当

私は2011年にデミオの車種担当を任されたのですが、実は女性のエンジニアがこの立場になったのは弊社では初めてのことでした。

女性初ということは周囲から言われて「そうだなあ」と思うくらいで、それほど意識させられる機会はありません。クルマというのは走りのある領域を超えてしまえば、男性も女性も操作時に抱く感覚は同じですから。

ただ、そうは言っても開発の過程では、女性だからこそ気付けることがあるのも事実でしょう。例えば、私は身長が154cmと小柄なので手足が短く、男性の評価ドライバーやエンジニアよりも力が弱いです。なので、車内のレイアウトの使い勝手やペダルの操作のしやすさ、重さには敏感にならざるを得ません。特にデミオはコンパクトカーですから、女性ドライバーがとても多い。「女性開発者」として自分に何が求められているかを考えることは、いまの仕事を任されたときから大事なことだという気持ちはありましたね。

そこで私が今回のデミオで強く意識したのは、クルマが動き出す前、座った瞬間から小柄な運転初心者の女性が「私でもちゃんと運転できるわ」と感じられる空間を作り出すことでした。

ひとつ具体的な例を挙げれば、シートの長さと柔らかさ。女性ドライバーの中には、シートに深く腰掛けずに前かがみになって、ハンドルにしがみ付くように運転している方がときおりいらっしゃいます。

私たち開発者は深くシートに腰かけて操作してもらいたい。でも、なぜ彼女たちがそうした運転姿勢になってしまうかを突き詰めると、シートが長すぎて膝下が窮屈になっていることが理由の1つとしてあるんですね。

難しいのは、だからといってシートを単純に短くしてしまうと、今度は背の高い人は膝下に空間ができて、運転中に疲れてしまうんです。開発者も上司もほとんど男性ですから、最初は「短くしたら運転が疲れるだろ」と一蹴されてしまいました。ただ、そこは私にとって妥協できない点だった。

そこでこの問題を解決するための切り札となったのが、振動吸収ウレタンという新しい素材でした。とても優れものの素材で、大柄の人が座ると沈んでシートが長く使え、軽い人に対しては沈み込まずに反発してくれるんですよ。そうした微妙な感覚は、開発者の中に私のような小柄な女性がいなければ、なかなか気づくことのできなかったものでしょう。