新卒ペーペーに言われたくない

ただ、この学習塾には2年いて、私は転職することになりました。途中で別の大手塾に買収されてしまって、経営スタイルが変わったのが理由の一つです。それから、実際に塾に2年間勤めてみて、こんなふうに感じるようになったんです。自分は「先生」と呼ばれているけれど、実は彼らがいずれ出ていくことになる社会やビジネスの世界を何にも知らないって。

新卒のペーペーの私が子どもにああしなさい、こうしなさい、と言っていることに違和感を抱くようになって、それなら自分が一度ビジネスの現場に出てみて、気づいたことや経験してことを、またいつか教育の世界に戻ったときに子どもたちに伝えたらいいんじゃないか、と考えるようになったんです。これは三城と全く同じ考えですね。

次に入ったのは保育園・幼稚園を対象としたコンサルティング会社の福岡オフィスでした。保育園で働く人たちの育成や研修会などをしている会社で、「社会を変える」という意味でも意義のある会社だと思いました。保育園って3Kの仕事に見られているところがあるし、国の方針で給料もすごく安くて社会的な地位が低いままにされていますよね。なので、多くの保育園では採用に苦労しているんです。

保育園の先生というのは人間の土台をとなる部分を見るのですから、本当は素晴らしい仕事であるはずなんです。でも、そうした魅力があまり社会に伝わっていない。園の側もそれを積極的に、保育士を目指す人たちに伝えようとしていないんですね。

そこに対して何かアプローチをできないかということで、この会社では採用情報誌を発刊していました。保育園の採用って、求人広告にも試験日と給料と労働時間といった必要最低限のことが書かれているだけで、多くの人が自分の家に近い園を受けて、受かったところで働くという就職活動が一般的です。

一般の会社ではありえませんよね。どの会社も説明会をいっぱいやって理念や社のカラーも伝えて、良い人材を採ろうとするのが普通なのに。保育園側にも事情があって、採用を厳選して保育士さん採用したくても、園によっては人が本当に足りないんです。だから、どんな人でも採用にゴーサインを出してしまう傾向もある。そうすると雰囲気が合わないので辞めます、っていう人も当然続々と出てきてしまう。採用の段階でのボタンの掛け違いが放置されていることで、保育の質が下がっていく、という悪循環があるわけです。

自分のやりたい保育と合わない、先輩と合わない、給料が安い――ということで、保育士自体を辞めて違う業界に行ってしまう方もいます。子供が好きだから、だけでは続かないんです。保育への意識が高い人ほどそれを感じたりしていて、本当にミスマッチの激しい世界だと実感しました。

そこで「こういう保育園に行きたい」と思って就職先を保育士さんたちを増やすために、それぞれの園で働いている人たちにもインタビューもして、マッチングが少しでもうまく行くようにすることが雑誌の狙いでした。