2つ目は、「将来性」。11年の日本の国民医療費はおよそ38兆円で、今後も伸びることが予想される。しかし、それを支えている社会保障制度の先行きは不透明で、今後は、企業がそれを下支えする必要に迫られることが想定される。遺伝子解析事業は、国内では数少ない成長市場である医療関連ビジネスへ参入するチャンスでもあるのだ。

遺伝子は、いったんデータ化されれば、「データの保管や解析はIT企業の得意とするところなので、ゲノム解析サービスはきわめて親和性が高い」(Yahoo!ヘルスケアサービスマネージャーの阿南愛氏)。IT企業が38兆円市場へ食い込む足がかりとしてはうってつけなのだ。

米国企業が躓いた「規制の壁」

ただ今後、大きな壁となりそうなのが規制の壁だ。昨年11月下旬、遺伝子ビジネスに冷や水を浴びせるニュースが流れた。米食品医薬品局(FDA)が23アンド・ミーに対し、遺伝子解析サービスの販売中止命令を出したのだ。理由は「医療機器として承認されていない」というもの。

これまでも米シリコンバレーのIT企業は、著作権法や税法などの「グレーゾーン」(適法か違法かが曖昧な部分)にあえて踏み込んで、ビジネスを拡大してきた。しかし人の命に関わる医療関連法規には、グレーゾーンは少ない。23アンド・ミーはそこを見誤ったとも言える。そんななか、今後、各社はどのようにビジネスを拡大していくのだろうか。

2. 今後、遺伝子ビジネスはどこへ向かうのか

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現在のビジネスモデル

今年に入ってから国内で各社が開始した遺伝子解析サービスは、「顧客からDNAの提供を受けて、解析し、その結果を返す」というシンプルなものだ(図)。場合によっては、顧客の同意を得たうえで、解析データを研究機関へ研究用に提供し、そこから得られた新たな知見(遺伝子と病気のなりやすさの関係)をサービスに活かす、という部分(図の上半分)が加わる場合もある。DNAデータと病気の関連を研究するには膨大なDNAデータが必要なため、「サービス提供により、遺伝子研究が加速する」(ジーンクエスト・高橋祥子代表取締役)のだ。

DNA解析データはサービス提供会社が保管し、新たな知見に応じてレポートを更新すれば、顧客との関係が一生続くという効果も期待できる。これだけでも、ユーザーをつなぎ留められるという意味で期待ができるビジネスではあるが、実は、これは遺伝子関連ビジネスの入り口にすぎない。