苦戦を強いられる大企業を尻目に、年率2割、3割増しで急成長するベンチャー企業がある。ベンチャー企業の経営者はどのような戦略、戦術をとっているのか。それらを検証していくことで、新しい儲けの道筋がきっと見えてくるはずだ。

MR君が囲い込む国内の医師の7割

「ネットを活用した“究極の囲い込み戦略”という点で最も成功しているベンチャー企業がエムスリーでしょう。同社は製薬会社の医薬情報担当者(MR)に代わって、『MR君』というサイトを通して会員の医師に医薬品などの医療情報を提供するサービスを行っています。その医師の会員数は約22万人を数え、全国の医師の7割に達しているのです。リアルのMRは接待規制を受けて医師にアプローチしづらくなっていて、製薬会社もMR君への依存度を高めざるをえません」

こう語るのは有望なベンチャー企業の発掘・紹介を日々行っているラジオNIKKEIの和島英樹記者である。

製薬会社は7000万円の基本料金のほかに、MR君を通して医療情報のメールを1人の医師に送信した場合、100円の手数料を支払う。5万人の医師に送信した場合の手数料は500万円。傍目には“濡れ手で粟”のようにも思える。

しかし、もともと各製薬会社にはMR営業で高いコストを強いられてきた事情がある。医師の医療情報の収集時間を情報源別に見た場合、MRが全体の17%なのに対して、ネットは倍以上の39%。その一方で関連費用はどうかというと、MRは約1兆4000億円で営業コスト全体の90%以上を占め、ネットは約1%の150億円程度にすぎない。確実に医師に情報が届くのなら、製薬会社にとってMR君にかかる費用は決して高くはないのだ。顧客製薬会社は最大手の武田薬品工業をはじめ28社を数える。

同社の設立は00年なのだが、早くも04年9月には株式の上場を果たす“スピード出世”を成し遂げている。13年度は前年度比32.9%増の売上高253億円、同16.9%増の経常利益90億円の見通しで、これを実現すると上場以来、9期連続の増収増益となる。まさに不況知らずの囲い込み戦略といえよう。