強い経営者を養成するには「教育」と「経験」が必須

新浪剛史氏

日本企業にとって、強い経営者を養成することは急務だが、その教育機関の一つであるビジネススクール教育をあまり重要視していないように見える。むしろ、社内で経験を積んでいくのがベストであり、ビジネススクールで教えるような経営理論は役に立たないという考え方が強い。

しかし、欧米の経営トップの多くは、MBAを持っている。ビジネススクールで教える経営学や考え方が、世界中の企業トップに浸透し、ある意味では経営の基本的な言語となっている。実は日本企業はそこに乗り遅れたからこそ、グローバル化が遅れたという側面もある。

もちろん過去には本田宗一郎や松下幸之助など優れた経営者もいたが、彼らは天才だ。普通のビジネスマンが強い経営者になるには教育をしっかり受けなければならない。実際、新浪氏、藤森氏も海外のビジネススクールで勉強したMBAホルダーだ。彼らのような人材がグローバルなビジネスリーダーとして起用されるのは、やはりそれだけの理由がある。

ただ、これからはビジネススクールの勉強だけでは不十分だ。今、知識はどんどん高度化しているからだ。ピーター・ドラッカーは「知識労働者の社会では、知識が唯一の生産手段であり、この知識を常にアップデートしなければならない」という。我々の大学院でも幹部候補の企業研修を組むことが非常に増えている。課長・部長職が平等に全員受けるものではなく、将来のリーダーを選んで行う選抜研修が増えているのだ。

その意味で、面白い事例となるのが日本たばこ産業(JT)である。JTはM&Aによる成長方針に則って、1999年にRJRインターナショナルを1兆円、2007年に英ギャラハーを2兆2000億円という巨額の企業買収をした結果、JTの海外たばこ事業は、キャッシュフロー(EBITDA)に占める割合で、99年3月期の8%から10年強でJT全体の60%まで伸ばし、JTの成長を牽引した。一般的には保守的な会社に見えるJTがなぜ、アグレッシブに海外企業の巨額買収を成し遂げ、成功できたのか。

その秘密は、JTが非常に強いリーダーシップを持つ会社だということだ。その源泉がかつてあったキャリア採用の制度だと考えている。JTは言わずと知れた昔の三公社の一つだが、官庁の上級職採用と同様に、幹部候補を採用するキャリア採用の制度があった。民営化の際に一度廃止されたが、JTは似たような制度を去年再び復活させている。

このキャリア採用制度がJTにおいて、強いリーダーを次々に輩出する仕組みになっていると私は考えている。このようなキャリア採用組は、入社のときから将来会社の幹部になると期待され、若いうちから責任の重いポストに配属され、苦労させられている。いろいろな経験をさせてトレーニングすると同時に、意識の高い経営者として育てていくのだ。日本企業のリーダー育成の一つの見本ではないかと私は考えている。