2014年9月5日(金)

季節感が消えゆくなか、器を彩るつま物は華やかに

築地、旬ばなし

dancyu 2012年10月号

文・福地享子
つま物屋の店頭には料理を彩る花や葉が増え、色鮮やかなエディブルフラワーも並ぶようになった。

寿司やてんぷらなどを目当ての一般客で賑わう魚がし横町。場内の一角にあるこのエリアは、そもそもは仕入れにきたプロの便宜をはかるための場所。飲食店の営業に必要なあらゆる物が買える横町でもある。調理器具に白衣や長靴、のれん、寿司ネタケースなどの道具類。お茶や海苔、漬物、調味料、酒などの食料品。料理書専門店に薬屋に……。

こうした物販店は70軒ほどあるだろうか。そのうち、もっとも数を占めるのは、つま物屋である。全部で11軒。つま亀、妻定、つま竹、つま長、妻傳と、多くは屋号につまの一文字。

「うちは日本橋時代から。魚河岸がお客さんでしたから、魚河岸の築地移転といっしょに、ここへ来たんです」と、つま亀のご主人。つまとは、刺身に添える付け合わせの総称。つま物屋さんは、だから魚に寄り添って歴史を刻んできた。軒をならべるその姿は、大量に魚が取り引きされる築地ならではの光景なのだ。

つま物の種類は多い。大根、大葉、大葉は花が花穂、実は実ジソとしても使う。ワサビに生姜。スダチなどの柑橘類やオゴノリなどの海藻類、木の芽や松葉、菊の花や葉に。あげると切りがない。

もともとは毒消しや匂い消しのためだった。たとえば大根。元禄時代の料理事典、『本朝食鑑』では「魚肉の毒をくだす」とある。冷蔵技術などない時代、つま物は、魚を生で食べるための知恵だった。

海外でも、同じ効用をハーブやスパイスに求めている。しかし、日本は、原点の効用だけに止まらない。盛りつけに季節感や彩りを添える手段として、積極的に取り込んできた。秋の声を聞くと、急に需要が増すのが可憐な黄色の小菊だ。器に一輪、それで秋を知る。やがて、濃い緑の菊の葉や紅葉したもみじに替わり、秋の深まりを感じる。季節感を大切にするのが日本料理。つま物の、その役割はとても大きい。

「つま物市場がいっきょに膨らんだのは、バブルのころ」とは、せり場でのつま物担当、ヨコヤマさんだ。「金でドーンとこいの時代だったからなぁ」

余裕が文化を育てるけど、つま物もそのようだ。しかし、バブル時代の影響を受けてか、つま物市場はいまだ進行形、進撃の手を弛めず、といった風だ。

たとえば、葉っぱ。かつては南天、もみじ程度だったが、徳島県上勝村の登場でアイテム数は増えに増えた。今の時季なら山ぶどう、柿の葉、椿、栗など。高齢化、過疎化に悩んだ上勝村は、今では葉っぱ産業で2億円以上の売り上げ。年収1千万円のおばあちゃんもいる。

あるいはエディブルフラワー。ヨーロッパからやってきた食べられる花々で、花穂と小菊だけの世界は一気に華やかに。さらには刺身のつま、という範疇まで飛び出し、結婚式場での洋風料理に欠かせないものとなった。愛知県豊橋市が主産地だけど、こちらも年間4~5億円の売り上げと、聞いた。パンジー、ナデシコ、ノースポール、トレニアなど種類は30種ほど。ことにサカタのタネが開発した黄色い小花をつける金魚草の種は、豊橋市門外不出の品種。産地間の水面下での競争が偲ばれるというものだ。

器のなかに、小さな季節の訪れを発見するのは楽しい。先日は、年若いフレンチのシェフが、エディブルフラワーを熱心に選んでいた。オードブルに添えようとして。つま物の世界は、これからも進化していくのだろう。街から、四季の彩りが消えていくなかで、さらに。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。