【可能性2】相手はいたって合理的だが、有利な取引に持ち込む戦略の一環として一見不合理な姿勢をとっている

ジョーはあなたから何を引き出せるか見るために強く押しているだけかもしれない。この戦略は、とくに過去にそれを使って成功した経験のある人にとっては、不合理なものではない。

ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー、ブルース・パットンの3人は、共著『ハーバード流交渉術』(TBSブリタニカ 1998年)で、自分自身が遇されたいように相手を遇するべきだと述べている。交渉理論が勧めるアプローチは、「立場ではなく利害に焦点を合わせる。工夫することとコミットすることを分けて考える。『もし~なら、どうなるか』という問いを重視する。客観的基準を強調する。放っておいても履行されるぐらいの合意をめざす」である。

効果的な行動の手本どおりに対応したのに、厄介な相手が合理的に行動してくれないからといって絶望してはいけない。あなたがとれる戦術はほかにもいくつかある。まず、事態についての自分の解釈が正しいかどうかを確認するために、あなたの社内の人間を交渉の場に同席させたいと主張し、相手にも同僚を連れてくるよう要求しよう。さらに、ミーティングを終えるたびに、内容を文書にして関係者に配布しよう。そうすることで、あなたは厄介な相手に「あなたが何をしているか他の人々が知ることになりますよ」と通告するのである。次に、あなたの利益を十分に満たし、相手の利益を少なくとも適度に満たすと思われる案をいくつかオファーする。たとえ合意に至らなくても、あなたのオファーは記録に残ることになる。最後に、相手をなだめたいというだけの理由で一方的な譲歩をしてはならない。相手を助長するだけだ。

あなたにどこまで押しが通用するか、本当に限界があると悟ったら、ジョーはおそらく要求をゆるめてくるだろう。

【可能性3】 本当に理屈の通らない相手で、普通の話し合いのルールはまったく通用しない

これまでに述べた戦術をすべて試してみても、うまくいかなかったとしよう。この場合、何ができるだろう。

まず、いくつかの合意案を記したメモをつくり、それから交渉を打ち切る明確な期限を定めよう。証拠や主張をすべて列挙して、それらの案がなぜ双方の利益にかなうのかを説明しよう。実現しにくい場合もあるだろうが、そのメモを交渉相手の上司のもとに届ける努力をしよう。

1対1の交渉で相手が前進を拒み、妥当な提案に一切応じず、他の人々を同席させるのを渋り続けるとしたら、交渉を続ける理由はほとんどない。

私自身は、われわれが不合理な行動とみなすものが本当に不合理であるケースはあまり多くない、と考える。経験から言うと、むしろ可能性2である公算のほうが高い。彼らは強硬姿勢によって相手の邪魔をすることで、自らの利益を高めようとしているのである。

(翻訳=ディプロマット)