今、活況を呈している数少ないカテゴリー「プレミアムビール」。
価格を高めに設定した高付加価値の「プレミアムビール」。サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」が主導し、サッポロ「ヱビスビール」が鎮座するこの市場に、昨年からアサヒビール、今年はキリンビールが新たに参入し、ギフトを中心に苛烈な販売競争が始まっている。
ただ、一様に“プレミアム”を名乗ってはいても、各社が持つバックグラウンドはおのおの異なる。大手4社の営業マンたちの奮闘ぶりを主眼にその違いをレポートする。

売れ行きを決める天気、人気、景気

「進化というのは、環境の変化に常に最適化し、生き残っていくこと」という小路。発売28年目にして初めてスーパードライの中身に手を入れた。「お客様やチャネルの変化に、常にスーパードライを最適化していけばいい」。

さて、最後に登場するのは王者・アサヒビールである。1~6月のビール系飲料のシェア、5年連続トップ。ビールに限ればシェアは約50%と断トツの強さを誇る(キリンは約25%)。主力は無論「スーパードライ」である。

そしてアサヒは昨年、このスーパードライのプレミアム版として、ギフト限定の「ドライプレミアム(ドライP)」を投入。今年2月から通年販売に切り替えて、サントリーのプレモルが牽引してきたプレミアム市場に真っ向勝負を挑んでいる。

米国のクラフトビールでよく使われるというアマリロホップや、スカイゴールデン種・サチホゴールデン種といった国産の「ゴールデン麦芽」の使用、さらに「ひと手間かけた贅沢醸造」をアピールするドライP。昨年はギフト販売のみで21万ケース。今年の上期はすでに225万ケースを売り、中元ギフトは6月の計画に対する前年比で116.9%と絶好調の売れ行きを見せる。アサヒグループホールディングス(HD)小路明善社長が言う。

「一般にビールの売れ行きは天気、人気、景気の3つで決まると言われています。では人気とは何かといえばブランド力。車のように機能性が重要な商品に比べると、嗜好品のビールはどうしてもブランド力の影響が大きい。私は、この人気と景気を徹底的に分析してからプレミアム市場に参入しないと、絶対に成功できないと考えたのです」

そもそもプレミアムと名乗り、相応の価格をつけるからには、ビールそのものの高いスペックは必須だろう。ドライPのスペックを覗いてみると、他の3社のプレミアムビールはすべて麦芽100%であり、プレミアム=麦芽100%がほぼデファクトスタンダードといえそうだ。だが、ドライPは、スーパードライと同じキレを出すべく副原料を使っている。

「そこは否定はしませんが、お客様が麦芽100%か否かでビールを選んでいるかといえばそんなことはない。もしそうなら、初年度からドライPがあれだけご支持を得るはずがありません」

無論、スペックが必ずしも売り上げに直結するとは限らない。そこから人気という不確定な要素が視野に入ってくる。

「ビールの味は酵母によってまったく変わりますが、ドライPにはスーパードライと同じ318号酵母を使っています。スーパードライのブランド力を使えば、間違いなく人気が出ると考えたのです。だって、スーパードライのプレミアムが出たといえば、誰だって一度は飲んでみようと思うでしょう」

小路はそう断じる。しかし、スーパードライをベースにしたドライPを併売すれば、ドライとドライPの間でカニバリ(共食い)を起こす危険が生じるのでは?

「実は今年、5年がかりで優良な酵母のみを抽出する技術を開発し、スーパードライの物性価値を上げたのです。スーパードライは発売28年目に入りましたが、味に手をつけたのは今回が初めて。今販売しているスーパードライは進化バージョンなのです。我々はスーパードライを進化させつつ、ドライPの通年販売に踏み切りました」

この戦略によって、カニバリを最小限に抑えることに成功した、と小路は言い切る。