「売れる商品でも、売らない信念。」

極めつけが、先物やFXと呼ぶ外国為替の取引は扱わないなどとした7項目の「いちよし基準」の徹底だ。いま店頭へいくと、どこにも「売れる商品でも、売らない信念。」と大書し、7項目を明示したポスターがある。先物やFXは大きく儲けることも可能だが、リスクも大きい。たくさん儲けたい気持ちはわかるが、大切な資産を減らしてしまっては不幸だ。

「智貴免禍」(智は禍を免るるを貴ぶ)――物事の是非を峻別できる人が最も大切にするのは、禍を避けることだ、との意味だ。『三国志』を彩った劉備らの出来事を収めた『蜀志』にある言葉で、未然に危険を避ける武樋流は、この教えと重なる。

40代を迎えるまで秘書として仕えた田淵節也社長(当時)から学んだ数々が、下敷きとなった。田淵氏の相場観はやはり慎重で、「株価が2、3割も上がったら、いったん利益を手にして、その3分の1を自由に使って楽しめばいい」が口癖だった。

深夜まで飲み、出社が社長より遅れると、田淵さんは「秘書がいないが」と秘書室へいく。上司が「夕べは、社長の代わりに酒席をこなしていました」とかばうと、「そうか」で終える。上海出張に同行し、やはり現地の社員と痛飲した翌日、会議で居眠りをしていたら、同席した副社長が激怒。秘書更迭を進言した。でも、「まだ1年目で、いろいろあるよ。3年の約束で秘書にしたのだから、まあ、置いておこう」と言ってくれたらしい。人を使うときには、少なくとも3年は我慢して使う。頷いて、自分も実践した。