相手に思いつかせて誘導する

また、人は相手から押し付けられた意見よりも、自分で思いついた意見を大切にするものだ。それゆえ、営業などでは必死になって相手を説き伏せようとするよりも、相手に重要感を持たせながら、本人が思いつたように話を進めることも大事である。

実は、この買え買え詐欺でも「本人に思いつかせる」という手が使われている。

最近では老人ホームの入居権をめぐる詐欺が多い。これは高齢者宅に、完成予定の老人ホームのパンフレットと入居権利申込書を届けておき、販売業者ではない業者から「この老人ホームに入居したい人がいるが、(自分たちのような)業者からの申し込みは受け付けてもらえない。入居権利を持っている人しかできない」と電話がかかってくる。

この話を聞いた高齢者は「自分が申し込めば、(販売業者を通じて、誰かの)人助けになる」との思いから申し込み、金を騙し取られてしまう。詐欺犯らは、高齢者らに「自分にしかできないこと」と思いつかせて、自ら申し込むように仕向けているのだ。

これまでの詐欺商法では、長時間にわたる一方的な勧誘で契約をさせることが多かった。しかし、これでは「買ってくれ」という押し付けがましい勧誘になり、キャンセルが続出し、詐欺業者にレッテルを貼られることになる。

そこで「買い取らせて欲しい」というお願いの形を取ることで、消費者側は「売りつけられている」という意識が希薄になり、相手に詐欺業者の印象を与えずに済むことにもつながる。

どうしても、営業では相手に販売することに力をおいて行動しがちである。しかし、一時の話で盛り上がって、契約をさせたとしても、客の心のどこかに「契約をさせられた」という思いがあれば、冷静になった時に心変わりしてキャンセルという事態に陥ってしまうことだろう。

口の上手い営業マンでありながら、契約後にキャンセルが多い人は、この辺りを注意してみることが必要かもしれない。相手の立場で考え、「重要感」というアンカーをしっかり相手の心に打ち込むことで、無理矢理感を覚えさせずに自ら契約したいと思わせることができるはずである。

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