客は自分を「重要な人物だ」と評されたい

この詐欺のポイントは、「限られた人にしか、送られていないパンフレットだ」「あなたにしか購入できない権利だ」などといって特別感を覚えさせることだ。

これは、D・カーネギー著『人を動かす』でいうところの「重要感を持たせる」である。

人身掌握に関するテクニックにフォーカスした自己啓発本としてつとに有名な同書のなかで、人を思い通りに動かすためには、「相手が欲しがっているものを与え、自ら動きたくなる気持ちを起こさせること」とある。人が欲しがるものには、健康や食べ物、お金があるが、それ以上に求めるものが「自己の重要性」である。これは、「重要な人物だと思われたい」「他人から良い評価を受けたい」という気持ちである。

詐欺師らは、複数の買い取り業者を装い「あなたにしか買えない特別なもの」「この株や権利を手にすれば、あなたは儲かる」という言葉を高齢者らに囁きかけて重要感を抱かせてくる。

というものも、現役をリタイヤしてしまった高齢者にとって、普段の生活では、なかなか社会に貢献できる機会がなく、他者から認められることが少ない。平素、自己の重要感を覚えるようなことがあまりないために、どうしても、第三者からの「あなたは特別だ」という言葉に弱いのである。

架空の話で金を騙し取るのは、もっての他だが、ビジネスにおいては、相手に対して自己の重要感を刺激しながら、契約話を進めることは大事である。ただし、それが、現在の仕事でのぼりつめた地位や権威なのか、これまでに培ってきた実績なのか、あるいは家族のことなのか。人によってそのポイントは異なってくるので、相手の立場になって考えることが必要だ。

もちろん、普段の何気ない立ち振舞いで、相手に重要感を持たせることも忘れてはならない。

たとえば、一度会った相手の名前を忘れずに話す。名前とは相手に重要感を持たせるのに、大切なものである。また、相手と会う時、別れる時に丁寧に挨拶をする。話の腰を折らずに、真摯に話を聞いて相槌をうつなど、相手を大事に思っていることをアピールする行為は様々な場所でできるはずである。