冒頭でエジプト情勢に触れましたが、古代エジプト文明はナイル川から流れる肥沃な土によって生まれました。土壌は農業や植生はもとより文明の成立や国の興亡にも影響を与えるもの。その土と人間との関わりをテーマにしたのが『土の文明史』です。

本書では「土」を巡って起きたさまざまな歴史上の事件が書かれています。たとえばアメリカの南北戦争。収奪的な綿花栽培は南部の土壌を著しく劣化させ、耕作地域は西漸します。南部の農園経営者は黒人を西に「販売」して利益を確保しようと、北部の求める奴隷制廃止を拒否したのです。土壌の問題から奴隷制を見た視点は面白く読みごたえは十分です。

地理という科目には地形、気候・風土、産業、資源、紛争などさまざまな要素が含まれます。その知識は日常のビジネスの役にも立ちます。関心を持つきっかけにしてもらいたいという思いを込めて書いたのが『忘れてしまった高校の地理を復習する本』です。地理とは山脈や河川の名前を覚えることが目的ではありません。風土によって人の暮らし、そしてメンタリティは変化します。そのダイナミズムが地理の面白さです。

●オススメの3冊

『最新世界情勢地図』
(パスカル・ボニファス他/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
――ややこしい世界情勢の背景がひと目でわかる、ニュースを見る時の必携本。

『土の文明史』
(デイビッド・モントゴメリー/築地書館)
――ローマ帝国、マヤ文明から現代まで土壌をテーマに世界の地理を考える発想が斬新。

『忘れてしまった高校の地理を復習する本』
(山岡信幸/中経出版)
――地理への関心を呼び起こし、基本から学び直せる本。

(相澤光一=構成 奈良岡 忠=撮影)
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