成長が鈍化し、空気が変わった

まあ、そんな経緯でベンチャー神田を訪れてみたわけですが、僕がこの会社で働いてみようと思ったのは、その採用面接の中で加藤さんが学生ベンチャー時代の挫折の話をしていたからなんです。

事業の話をして会社のビジョンについて語る中で、自分は挫折もしてきたけれど、今はこういう夢を描いてこういう世界を作りたいと思っている、と彼は静かに語っていました。ベンチャーの経営者でそんな素直な語り方をする人は珍しいんじゃないですかね。ただ、自分の挫折の話を淡々と語れるのは、それを乗り越えた結果であったり強さであったりするわけで。当時、BCGでの挫折をどうにか乗り越えようとしていた僕には、とりわけ強く共感するものがあったんです。

レアジョブは僕が入社して1カ月後にベンチャー神田を出て、渋谷の築40年の雑居ビルにオフィスを移しました。ペンキのバケツを持って灰色の壁を茶色に塗り替えながら、これがベンチャーだよなあ、と感じたのをよく覚えています。

最初に「良い面も悪い面も見せてもらった」と言いましたが、それから2年間は事業が絶好調だったんですよ。何をやってもうまくいって、倍々ゲームでお客さんも増えていく。

ところが、その後成長が少し鈍化しているような空気が社内にではじめて、さらに震災の翌年に不正アクセスによる情報流出の可能性が問題になったことがあり、何か会社全体の雰囲気が悪化していました。

こうした状況になると、会社も人も徐々にモチベーションが低下してくるんですよ。がんばって働いているのに、以前ほどにはアウトプットが残らない。

うちの会社がその危機から立ち直ったのは、外部から経験豊富な役員に入ってきてもらった以後のことでした。当時は危機の中で必死な状態でしたが、よくよく考えると、それってベンチャーの本を読めばそのまま書いてあるようなことなんですよね。

スタートアップの頃のイケイケの余韻がまだ残っているから、しばらくそのまま進んでいく。すると問題が次々に起こってくるので、外部からベテランの人を入れて危機を乗り切る。そうすると事業は安定するけれど、今度は以前よりもベンチャーっぽさが失われる――。会社というものが辿るそのサイクルを、レアジョブは教科書通りになぞってきたようなところがあると思います。自分のキャリアにとってその経験は、最も大きな意味を持っていくことになるでしょうね。