「20代を生きた記念になるものを持ってますか」

また、ある20代男性は、女性勧誘員から次のような話術で高額な絵の購入を迫られた。

まず、勧誘員は「私は現在30代です。20代の頃を振り返ってみて、悲しいことが一つあります」と前置き。それからこう情感を込めて言った。

「20代のころは、毎日、飲んで遊んでばかりいて、思い出になる品物を一つも残していなかった。今、人生を振り返ってみて、20代を生きた証として何かひとつでも、思い出の品を残しておければよかったと後悔しています。あなたには、そうした後悔はさせたくありません。あなたは、20代を生きた記念になるようものを何か持っていますか?」

彼が首を横に振ることを想定したかのように勧誘員は続けた。

「では、この絵を買うべきです。考えてみてください。飲み会では1回につき、数千円が消える。その1回分の飲み会代を我慢して、月に1度の絵の購入代金にあててはどうでしょうか。同じお金を出すことで、20代の思い出の品がひとつでも残すことの方が、すばらしいことではありませんか?」

10年先の未来から、今の自分の姿を見させて、購入への前向きな返事を勝ち取ろうとしてくる。これもまた、10年後という大きな視点に意識を移させたうえで、今の姿にズームインしていく手法である。

客の立場に立てば、セールストークの「視点」が変化したところでヤバいと思ったほうがいいことになる。「ストーリー」に乗せられて買ったモノはたいてい後悔するものだ。

とはいえ、売る側に再び戻れば、悪徳業者であれ、通常のビジネスであれ、客をそう簡単に逃すわけにはいかないだろう。

そこで、有効的なのが「フレームワーク思考」だ。フレームワークで物事を考えるとは、まずは抱えている問題を大きな枠でとらえ、その問題を解決するのにふさわしい切り口を考えて、再びその部分へズームインして考えるという手法。先ほどの「視点変化」に似た発想の転換をはかって問題点をあぶり出して、解決へと導くのだ。

交渉などでは、契約を締結させようとするとすればするほど、視野がどんどん狭くなり、話が煮詰まってしまいがちになる。そこで、一端、目の前の話から離れて、会社あるいは、日本といった全体の視点から物事をとらえ直してみる。「今後、日本経済はどうなると思いますか?」「御社の今後の経営戦略は」そして、相手の頭の中に全体の地図を描かせながら、契約を渋っている本当の理由を大きな視点からもう一度、あぶり出して、ボトルネックを解消させていく。