住んでいるのが構成員ではなく、暴力団関係者の場合はどうだろうか。各地の暴力団排除条例では、契約関係からの排除対象者として暴力団構成員と「密接な交友関係を持っていること」を要件としている。同じマンション内に、暴排条例上、明らかに暴力団関係者にあたる者が住んでいるのに、マンションの区分所有者が譲渡または貸与の契約の際にその旨を説明しなかったとすると、説明義務違反になるものと考えられる。これは自殺があった住宅についての説明義務と同等である。

東京都の事件で、投資用の不動産を購入した医師が、契約完了後に初めて「ビルの中に暴力団関係の会社がある」旨の説明を受け、それを書面に明記されたために銀行融資が受けられず、仲介業者に手付金を没収されてしまったケースがある。この仲介業者はさらに、医師に対して仲介手数料の支払いを求めて訴訟を起こしたが、裁判では医師側の主張が認められ、仲介業者の請求は棄却されている。このケースでは暴力団関係者の経営する会社が存在することが、銀行融資が下りない原因となっており、仲介業者には契約締結前にそうした会社の存在を買い主に説明する義務があったと考えられる。

しかし一般に、マンションの一角に建築会社などのオフィスがあり、そこに暴力団関係者と思しき人間が出入りしているにすぎないといった場合、それを重要事項として説明することまでは、法律上は求められていないと考えられる。なお、本稿の意見に関する部分は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織などにおける見解ではないことをお断りしておく。

弁護士・東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会委員長 園部洋士
1965年、茨城県生まれ。明治大学大学院修了。東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編『企業による暴力団排除の実践』が発売中。
(構成=久保田正志)
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