GKカシージャスの終焉

スペインで、スペイン代表GKイケル・カシージャスを「カシージャス」と呼ぶ人はいない。スペインでは、彼は「聖(サン)・イケル」と呼ばれている。彼が、レアル・マドリード、そしてスペイン代表の幾多の危機を救ってきた聖人であることには、誰も反論の余地がないだろう。

サッカーの世界では、GKには失点の責任はほとんどない、というのが常識だ。失点の前にクロスを入れさせてしまったサイドバック、ゴール前でマークを外してしまったセンターバック、あるいはFKのきっかけとなった無意味なファウルを与えてしまったボランチが悪い、というのが普通である。だが、今回のW杯に限ってはカシージャスの責任を追及せざるを得ない。

対チリ戦の2失点目を思い出していただきたい。FKのこぼれ球を押し込まれたわけだが、この場面を振り返るとさまざまな問題点が浮き彫りとなる。

FKを蹴ったのはチリのFWサンチェス。ボールの周囲には彼しかいなかったので、「右足で蹴ってくる」ことは明らかである。にもかかわらず、壁の一番外に身長が170cmのイニエスタがいる。

FKの際に作られる壁についての指示はGKの裁量である。何人で壁を作るか、そしてその壁のどこに誰を置くのかはGKが指示を出すことになっている。そして、壁を作るときの大鉄則は「キッカーから見て外側に背が高い選手を置く」ことである。にも関わらず、今回カシ―ジャスは、高身長とは言えないイニエスタを壁の外側に置く、というミスを犯した。

さらにカシージャスはボールをフィールド内にはじいてしまっている。フィールドの外側に弾けばあのような大事にはならなかった。これは“試合勘”が鈍っているからではないか。

広く知られる通り、カシージャスは2012-13シーズン後半からレアル・マドリードで出場機会が激減した。具体的には、2012年12月22日のスペインリーグ第17節対マラガ戦で初めて先発を外された。次の第18節ではカシ―ジャスの代わりに先発で起用されたGKアダンが前半5分で退場処分を受けたため再び試合出場したが、2013年1月23日の国王杯準々決勝対バレンシア戦のセカンドレグでDFのアルベロアと交錯し指を骨折してしまった。その後彼は復帰したが、途中加入した新GKディエゴ・ロペスからポジションを奪回することはできなかった。

一つ確かなことがある。何の競技であれ、「選手は監督に選ばれて初めて試合に出られる」ということである。そしてよく誤解されるところだが、監督という人種は好き嫌いで選手を選ぶことがない、ということだ。監督は「この試合」に勝つために最善のメンバーを選ぶ。そこに好き嫌いは介在しない。監督は勝利によってのみ評価される。つまり、モウリーニョもカシージャスが嫌いだから先発を外したわけではない。

もしモウリーニョがカシージャスを嫌ったために試合から外したとするならば、レアル・マドリードでモウリーニョの次にカルロ・アンチェロッティが新監督に就任した時点でカシージャスが先発に復帰するはずだ。しかし、アンチェロッティはスペインリーグでカシージャスを起用することはほとんどなく、ディエゴ・ロペスの起用を続けている。

私は毎日バルデべバス(レアル・マドリードの練習場)を訪れているわけではないので真の経緯はわからない。だが、レアル・マドリードで出場機会が減少しているカシージャスに衰えが見えていることは間違いない。