――過去の例では米国当局の摘発を受けても、関係者が日本にいる限り、逮捕されることはなかったと思います。

【杉本】おっしゃるように、日本にいる限りアメリカの逮捕権が及ばないため、これまでは捕まらなかったわけです。正式に起訴されても本人が出頭しないから、そこで手続きがサスペンド(一時停止)されていました。ところが、08年にマリンホースの会社がカルテル行為で摘発され、2人が訴追された頃から米国当局の対応が一段と厳しくなり、一度摘発されると芋づる式にやられる危険が高まってきています。

2012年の航空貨物カルテルでは、EUが1億7000万ユーロの制裁金を科した。(AFLO=写真)

司法取引に応じないと、罰金や刑罰が厳しくなるばかりか、アメリカでビジネスができなくなるリスクがあるため、社員に「行ってこい」と言って身柄を差し出す例も出てきています。アメリカはどこの刑務所に入るかまで司法取引で決まるそうですが、殺人犯や強盗犯と一緒だと身がもたないと、ホワイトカラー犯罪の刑務所に入れてほしいと取引することもあるとか。海外でビジネスをしようとすれば、従来とは様変わりした状況になっていることを、ぜひ知ってもらいたいと思います。

――カルテルの摘発に対して、日本企業が国際的な基準に戸惑っているのはわかりますが、米国企業はどのような対策を講じているのですか。

【杉本】米国当局が反トラスト法の適用を厳しくしているのに合わせ、米国企業もコンプライアンスを強化しています。例えば、同業者同士が電話をかけ合うことは避けて、同業者が会うときには必ず第三者が一緒にいるようにしている。同業者がゴルフをするときでさえ、弁護士などが一緒にいて、第三者が「ビジネスの話はしていません」ということを証明できるようにしたりしています。このように米国企業の対策は進んでいますが、日本企業ではそういうコンプライアンスがまだ明確になっていない。社内でルール化するよう整備を急ぐ必要があります。