山岳地帯の多い日本には向かない

(AFLO=写真)

従ってリニア中央新幹線のプロジェクトが国民の不利益にならないようにしっかり検証されるべきだが、JR東海が発表した概要を聞いていると、首を傾げたくなることが多い。

たとえばリニア中央新幹線は東京(品川)-名古屋間286キロメートルのうち86%が地下を通るという。騒音振動対策や用地取得手続きを簡略化するためで、都市部では深さ40メートル以上の「大深度地下」を走らせる。

東京の起点を東京駅ではなく、品川駅にするのも意味不明(東京駅は混み合っていてリニア用ホームのスペースがないというが)だが、地下40メートルにホームをつくったら、品川と名古屋でそれぞれ乗り換えに10~20分はかかる。東京駅経由でリニアに乗り込もうという人は、少なくとも30分程度の余裕を見ておかなければならない。乗り換え時間を加味すれば、従来の新幹線の所要時間とほとんど変わらなくなってしまう。

そもそも時速500キロメートルのリニアは名古屋のような300キロメートル圏の運行ではそれほど優位性は出てこない。本来、東海道新幹線は時速320キロメートルまで出るように設計されている。カーブの多さや騒音問題があるからそこまでのスピードは出していないが、線路などを少し手直しするだけで320キロメートルが出せるのだ。実際に、東北新幹線は320キロメートルで走っている。ということは、今の新幹線でもノンストップなら名古屋まで1時間で行けるのだ。これが東京から1000キロメートル以上の北海道や九州なら移動手段は飛行機が選ばれる。

結局、リニアと在来新幹線と飛行機のスピードを比較すると、リニアが有利なのは700キロメートル程度の目的距離だ。日本で言えば東京-岡山くらいだが、大阪をすっ飛ばして東京と岡山を直結させても経済的な意味はない。

そもそも国土の70%が山岳地帯の日本にリニアは向かない。世界を見渡せば、大きく迂回せずとも、トンネルなど掘らずとも500万人規模の都市と都市を直線的に結べる平らな場所はある。ボストン-ニューヨーク-ワシントン、ロサンゼルス-サンフランシスコ、モスクワ-サンクトペテルブルク、リオデジャネイロ-サンパウロ、クアラルンプール-シンガポール、ムンバイ-ニューデリーなど、リニアの売り込み先はいくらでも考えられる。