気候というものは自然発生する「揺らぎ」を常に抱え、気温や雨量、気圧配置は数年の間に平均値の周りをいったりきたりしています。ゲリラ豪雨、スーパーセル、スーパー台風、そして猛暑……。近年のこうした異常気象のいくつかは、この従来の気象の揺らぎ=「気候変動」の極に、温室効果ガスの増加などの影響で一定の傾向を持つ「気候変化」が重なることで起きています。

ではなぜ台風18号は上陸の直前まで異例の発達を続けたのか。それは日本列島近海の水温が、9月中旬の時点でも27℃という高さを保ったままだったからです。例年は台風の北上などによって海水が撹拌され、海面水温の異常な上昇を抑えてくれます。しかし、13年夏は小笠原高気圧の勢力が強く、台風の北上を阻みました。夏の日射によって暖められ続けた海が、9月になっても高い水温を保ったのです。その中で発生した台風は高い水温の影響を受け、愛知県に上陸するまで異例の発達を続けました。京都、滋賀、福井の3県に「特別警報」が発令されたことは記憶に新しいでしょう。私はこれを「猛暑の置き土産」と呼んでいます。13年の台風18号は、温暖化によって従来の常識が通用しなくなりつつある一例なのかもしれません。

気候学を研究する私が注目しているのは、「気候の揺らぎ」をもたらす自然変動が、温暖化という「気候変化」の影響を受け続けることで、変動に関わる大気循環異常自体が現在とは異なる構造や振れ幅をもつようになるのか、という問題です。そのように変動の構造や振幅そのものが変わることを「変調」と言います。気候の揺らぎに「変調」が起こった場合、気温の揺らぎ幅が拡大したり、経験のない豪雨が起きたりして、これまで以上に「想定外」の異常気象に見舞われるかもしれません。果たして温暖化の進行はそのような気候の揺らぎに「変調」をもたらすのか。今後は、その兆候を見定めたうえで、対策を練ることが必要でしょう。

東京大学先端科学技術研究センター教授 中村 尚
東北大学理学部卒。同大学院修士課程修了後、渡米。1990年ワシントン大学大学院修了、学術博士(大気科学)。93年より東京大学勤務。2011年より現職。日本気象学会理事。日本学術会議連携会員。
(構成=宮内 健 撮影=プレジデント編集部)
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