須藤さんたちは、少なくても週に1、2回は各学校を回り、残菜が少ない学校は何が違うのかをチェックした。調理を担当する委託会社のスタッフや担任の教員と頻繁に会話する。給食を食べる子どもたちの教室に足を運び、子どもたちの声に耳を傾ける。そんな小さなコミュニケーションの積み重ねを献立や味つけに反映させる。学校を回りながら見えてきた各校それぞれのやり方を、毎月1回、区内の学校の栄養士を集めて行う給食献立検討会で共有して、基本レシピを作った。

「給食はその日の天候や食材によって、微妙に塩加減を変えたり、調味料を入れるタイミングを変えたりします。ベテランの栄養士になると当たり前にできますが、新人で経験の浅い栄養士は、誰に相談をしていいのかわからず、孤軍奮闘していたのです。それまでは自分が担当する学校だけだった目を区全体に向けてもらうようにして情報を共有することにより、栄養士のレベルを全体的に底上げすることができました」(須藤さん)

足立区職員 
おいしい給食担当係 
安田真人

一方で、須藤さんにとっても「おいしい給食担当係」での仕事が今まで当たり前と思っていたことを見つめ直すきっかけにもなったという。

例えば、「なぜ和食の献立でも牛乳を出さなければいけないのか」という区長の疑問を受け、毎日牛乳を出すのは当たり前だと思っていたが、お茶ではダメなのかを検証し直した。

牛乳には都から助成金が出ているため、紙パックのお茶にすると予算内でまかなえなくなってしまう。給食室で麦茶を作る場合は衛生面をクリアするためには食器をしまう消毒保管庫を新たに購入する必要がある。そしてなにより、牛乳以外でカルシウムの必要摂取量を摂るには、小松菜や小魚を大量に食べなければならず、献立に偏りが出てしまう。

自分たちの仕事を含め、「当たり前」を一つ一つ検証するうち「給食を通して子どもの生きる力を養う仕事をしているという実感がわいた」と言う。

現在の「おいしい給食担当係」の安田真人さんは、いくつもの学校を歩くなかで、給食を食べる環境づくりの大切さを感じている。

「食べ残しが減る条件の一つに、子どもたちが落ち着いていることがあげられます。落ちつきのない学校はどうしても配膳などの準備に手間取って食べる時間が削られてしまいます。結果、残菜率が高くなってしまうのです」

そして「環境づくりには教員の声がけが大きい」と続ける。

例えば、赤だしの味噌汁を残す児童が多い。関西圏で食される赤だしは東京の家庭の食卓に上らないので食べ慣れないのが一因と考えられる。けれど、教員が「この味噌汁は高級料亭で出るんだよ」と何気なく声をかけると、子どもたちは興味を持って食べ始める。

濃い味に慣れている子どもには食材の味を活かした料理が薄味と感じるが、しつこく出し続けて毎日食べることで味がわかるようになるという。

「最近では、『今日のスープはだしがきいていて美味しい』と児童に言われた、という嬉しい声も栄養士から上がってきています」(加藤さん)

(大森大祐=撮影)
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