「当たり前」を一つずつ検証

こうして始まったおいしい給食事業だが、最初からスムーズに事が運んだわけではない。

足立区職員 管理栄養士 
須藤友美

「給食は、児童・生徒の健康面はもちろん、学習や生活、心理、マナーなど様々な面に影響を及ぼします。でも当時、最優先すべきは『安全で衛生的に提供すること、そして栄養を満たすこと』という意識が強かった」

そう語るのは管理栄養士の須藤友美さん。現在は区内の保健総合センターが勤務先だが、事業が始まった当時、足立区教育委員会の学校給食係の職員の1人だった。

「都の定めでは、栄養士は2校に1人の配置ですが、足立区はおいしい給食事業が始まる以前から、1校に1人栄養士を配置していました。それぞれに残菜量もチェックしながら、献立作りに励んでいました。そもそも美味しくない給食を作ろうと思っている栄養士は1人もいなかったのです」

どの栄養士も、自校の残菜率を定期的に計測して献立に活かす必要性を感じ、実行していたのだ。だが、問題があった。残菜の測り方が学校ごとに違ったのだ。例えば、汁ものの残菜を測る際、汁を抜くか抜かないかでは数字に大きな差が出る。

そして多くの栄養士が計測方法を区内で統一することに反発した。数値を可視化して比較すれば、当然評価される。残菜率が多ければ「まずい給食」「ダメな学校」というレッテルが貼られる恐れがあった。

足立区職員 栄養士 
加藤悦子

「実は、栄養士の感覚からすると、食べ残しがない給食が優れているとは一概には言えないのです。残菜がゼロの場合、子どもたちに給食の量が足りていない可能性があります。一方で欠席者が多いのに残菜がゼロの場合は、カロリーを摂りすぎている可能性も考えられます」とは、現在区教委学務課で学校給食を担当する栄養士・加藤悦子さんだ。

昔と違い、学校教育では嫌いなものを無理に食べさせることはしない。また繁華街に近い学校の場合、安易に買い食いができるため給食を残す児童・生徒もいるという。

「当時、『食べ残しを減らすことだけが目標なら、子どもが好きなハンバーグやパスタを毎日出せばいい』という皮肉も聞こえた。現実を直視させて、批判があってもやりきる気持ちを伝えなければならなかった」と近藤区長。そんな区長の思いと現場の栄養士との調整が、学務課に設けられた「おいしい給食担当係」の仕事だった。