ほかのメディアにはできないことをやろう

デスク時代で思い出深いのはやはり3.11のときです。このときもパートタイムデスクが大活躍してくれました。本当は真っ先に現場に行きたかったでしょうが、「私たち残りますよ」と言ってくれました。

ページ増への対応や記者の派遣など頭を悩ますことがたくさんありました。一刻も早く記者を現地入りさせたいけれど、福島第一原発の事故で安全性の確保も重要です。誰をどのタイミングで行かせるか、社内調整も含めてとても難しい問題に対処する必要があったのです。

また、英字新聞の特徴を出す紙面づくりも求められました。海外のメディアから「情報がほしい」と依頼が殺到し、CNNやBBCから「今からライブをやるからフクシマの状況をコメントしてくれ」と言われる中で、ほかのメディアができないことをやるべきだろうと考え、外国人の安否確認や、外国人が一番不安に思っている原発事故が起きた今、東京は本当に安全なのかを専門家が解説する記事を掲載しました。

一連の震災関連の記事で、ジャパンタイムズとして本当にやってよかったと思えたのが宮城県の魚の缶詰工場で働くフィリピンの人たちのルポです。難民支援のNGOを通して外国人の安否を尋ねていたとき、多くのフィリピン人女性が缶詰工場で働いていたという情報を得ました。記者が行ってみると、工場は被災し働ける状態ではありません。記者が「ほかの外国人は母国に帰っていますが、あなたたちは国に帰らなくても大丈夫ですか」と尋ねると、「ここにはおとうちゃんもいるし、子どもたちも学校に通っているから、私たちこれからもここで頑張る」と答えたのです。そんな日本にとどまって生きていこうとしている彼女たちの話を記事にしたところ、大きな反響がありました。

それから1年後、どうしているかと記者が再訪すると、フィリピン人の女性たちは介護の資格を取って施設で働いていました。「缶詰工場で働いていたときは日本語もわからず、誰とも話をしないまま黙々と仕事をしていたけど、今は人から感謝されて生きている感じがする」と嬉しそうに語りました。過疎化が進む被災地で、フィリピンの女性たちがこのように地域を支えて生きている、という話はまた感動的な記事になりました。