人材の流動性が会社の新陳代謝を促す

製品開発の過程は、リサーチとデベロップメント(R&D)のステージに分かれます。リサーチでは高いクリエイティビティが求められ、リサーチで出てきたものを商品化するための開発過程であるデベロップメントには、高いオペレーショナルエクセレンスが必要とされます。

新薬開発の場合は、 化合物探索の段階では存在しないものを創り出せるクリエイティビティが、 臨床試験に入る段階では決められたことを定められたルールに基づいてきっちりと行えるオペレーショナルエクセレンスが求められるようになります。化合物を大量生産しても品質は維持できるのか、多くの患者さんに確実に届けることができるのか、医師はきちっと臨床試験のプロトコールを遵守しているのかなどを管理していくチームには、きっちりと繰り返し当たり前のことを当たり前に遂行できる能力が求められます。これは容易なようで容易ではありません。

アキュセラも、臨床開発に入った段階で、そういう人材を増やしていきました。それに伴い少しずつ会社のカルチャーを変えていく必要もあったので、研究施設と開発施設にキャンパスを分け、ボセル研究所ではクリエイティブを重視した環境を維持し、開発を担うシアトルオフィスではオペレーショナルエクセレンスを重視した環境を整えました。

企業文化を企業の成長段階に応じて変化させると、徐々にではありますが必然的に人も入れ替わるものです。米国の労働環境は人材の流動性が高いので、必要な時に必要な人材を採用することができる。経営の柔軟性は高い。余剰人員が許されず必要最低限の人材しか抱えられないベンチャー企業にとっては有り難い環境です。次々に入れ替わる人材を束ねていく苦労は大きくても、人材の流動性が高いことは米国で起業した利点だと実感しています。

窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ会長・社長兼CEOで、医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。著書として『極めるひとほどあきっぽい』がある。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp
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