クラウド発の製品ヒットの予感も

同じく後発組ながら、中小企業のモノづくりに特化したプラットフォームとして異彩を放っているのが、自社製品開発の支援会社「enmono(エンモノ)」が運営しているプラットフォーム「zenmono(ゼンモノ)」である。

五光発條社長 村井秀敏 
自社製品であるスプリングと、子どもの頃から大好きだったブロック模型を組み合わせてつくりあげた「SpLink」。いまでも時間を見つけては、オリジナル作品の制作に挑んでいる。

三木康司社長と技術担当の宇都宮茂取締役は「オリジナルで人々を驚かせるような新しい製品は、開発者自身の個々のなかに眠っている」という考えから、11年3月から中小企業の経営者を対象に「マイクロモノづくり経営革新講座」を開催。その講座で独自のプロジェクトを構想した“卒業生”たちをバックアップするため、13年5月28日にゼンモノを立ち上げた。

そして先陣を切ったのが、バネ・スプリング専業メーカーの五光発條の村井秀敏社長だ。10年9月に3代目の社長に就任したときには、バネやスプリングは機械さえあれば、どこでも同じものをつくれ、付加価値を高めるのが難しい状況だった。そこで「下請け仕事に甘んじていたら、自分たちの未来は描けない」と危機感を募らせた村井社長は、自前の製品をつくってエンドユーザーに直接売っていくことを決意する。

「世にない自分の好きなモノをつくりましょうと三木さんからいわれ、子どもの頃から大好きだったブロック模型で、自分たちが得意とする“スプリング版”ができたら面白いと考えて試作したのが、スプリングの形状を変えて互いにジョイントできるようにした『SpLink(スプリンク)』です。しかし、本当に売れるのか皆目見当もつかず、パッケージや取扱説明書などの作成費用として50万円を目標に募集を開始しました」

しかし、応募金額に応じてもらえるスプリンクの「ねこ」「カエル」「キューブペン立て」のキットの魅力に加えて、村井社長が仕事を終えてから1週間ほど夜なべして組み立てた、横60、70センチメートルはあろうかというドラゴンなどが映し出された動画の迫力に圧倒された人たちからの応募が次第に増えていく。

「そうなると面白いもので、それまで横目で見ていた社員が『本当に売れるんだ』と関心を示すようになり、なかには『社長、こんなものを自分もつくってみたのですが』といいながらスプリンクの模型を持ってくる社員も現れるようになったのです。さらに『取り扱ってくれそうな問屋を紹介しますよ』とか、『取扱説明書を依頼するならここがいいよ』など、自分たちでは知りえなかった情報も応募してくれた皆さんから寄せていただけたことも助かりました」

募集スタートから2カ月後の最終期限である7月28日には、目標金額を上回る55万500円で見事ゴールを果たす。12月11日から自社のホームページを通して先の3種類のキットのネット販売を開始。その後、自由に創作できるように各種のパーツを缶にパッケージしたものも、ラインアップに加えるようになった。今年の3月からは生活雑貨の大手チェーンであるロフトの渋谷店や横浜店など旗艦店での販売が始まっている。

「ゼロの状態から自分たちの製品を持てるようになったという自信がついたことは、何ものにも代えがたい財産です。何か問題が発生しても、外部のリソースを活用して解決していける道筋が見えてきました。自前の経営資源が限られた中小のモノづくり会社こそ、クラウドファンディングを活用すべきでしょう」と村井社長はいう。

(宇佐見利明、南雲一男、加々美義人=撮影)
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