「やる気」が「やれる気」に変わった

コンテンツマーケティングを手掛けるイノーバは、CEOの宗像淳さんとCOOの幸村潮菜さんをはじめ、18人の社員のうち6人が楽天出身だ。

コンテンツマーケティングとは企業がメディア企業のようにウェブサイトなどを通じて情報を配信し、製品に自然と興味を抱いてもらおうとする新しいマーケティング手法。アメリカで盛んになりつつあるもので、同社は日本で先駆けてこの手法に特化したサービスを提供し業績を伸ばしている。

宗像さんも坂本さんと同じく、楽天での体験を企業経営に取り入れている。その一つに「朝会」がある。富士通を経て楽天へ入社した宗像さんは、会社がどこへ注力しているかを全社員で共有していることに驚いたという。

「楽天では週に一度、朝に全社員を集め、各事業の代表者が進捗状況を発表していました。それぞれの事業で取り組んでいる課題、その解決方法をみなで共有できることが大きな利点です」

営業統括部長を務め、三木谷浩史社長から「次世代女性リーダー5人」の1人に選ばれたこともある幸村さんは、同社を「『やる気』を『やれる気』に変える会社」と表現する。彼女が宗像さんとともにイノーバで実践するのは、「楽天流」の仕事の進め方である。

「楽天のマネジメントの特徴は、最初にとんでもなく高い目標を掲げてしまうところにありました。その目標や実現方法を『因数分解』していくんです」

たとえば3カ月で達成すべき数値目標があれば、1カ月で33%、1週間では約8%と数値を分ける。仕事の内容も同様で、仮に楽天市場の売り上げを上げようとすれば、ユーザーへのメールの配信数、商品数、クライアントに会う回数など目標を構成する要素をすべて分解し、それぞれの課題を一つひとつ解決していく。

「大きな数字を小さな数字にして、日々それを乗り越えていくわけです」

楽天から起業家が多く輩出されるのは、こうした体験が「やれる気」を育むからではないか、と彼女は指摘する。

「大きな目標を達成するためのプロセスが一度血肉化されると、どんな目標が与えられても『何か実現する方法が必ずあるはずだ』と考えるようになる。つまり自信がつくんです」

また、「元楽会」という楽天のOB会組織の存在も、起業家を生み出す背景にあるという。現在、450人近い会員が所属しており、幸村さんもここで得た人脈を経営に役立てている。

「楽天出身者は自分で走り出す人が多い。起業したり他のベンチャーで働いている人がたくさんいるため、負けられない、自分もチャレンジしたいという気持ちになっていくんです」

(的野弘路=撮影)
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