2014年6月5日(木)

アメリカが弱体化、世界の勢力図が変わる

大前研一の日本のカラクリ

PRESIDENT 2014年6月16日号

著者
大前 研一 おおまえ・けんいち
ビジネス・ブレークスルー大学学長

大前 研一

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成 AP/AFLO=写真
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冷戦時代の発想から脱却せよ

日米欧の先進主要7カ国で構成されるG7による国際協調路線は、多極化した世界ではもはや機能しない。かといって新興国を加えたG20では利害や価値観の相違が複雑に絡み合って、国際的な課題をコントロールできない。アメリカと中国の2大国によるG2にしても、かつての冷戦構造のような秩序を生み出す枠組みになっているわけではない。

世界経済会議(ダボス会議)に出席したイアン・ブレマー(右から4人目)。(AP/AFLO=写真)

そうした時代状況について、アメリカの国際政治学者で、コンサルティング会社ユーラシアグループ代表のイアン・ブレマー氏は、世界は主導国の存在しない「Gゼロ」の時代に突入したと指摘する。いかなる国も国家ブロックも、世界を主導するリーダーシップを発揮できず、求心力になりえない。グループならぬ、浮遊するグラビティ(重力)ゼロの時代――。Gゼロ時代の混迷を象徴しているのが、ウクライナ情勢だろう。

ウクライナから独立してロシアに編入されたクリミアに続き、ウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州にも分離独立の動きが波及した。親ロシア派勢力が行政庁舎や警察署などを占拠、住民投票を経て主権国家としてウクライナからの独立を宣言する事態にまで発展している。

分離独立の先頭に立っている両州の親ロシア派勢力を欧米は非難する。しかし、欧米が支持するウクライナの暫定政権にしても、首都キエフで庁舎を占拠し、ヤヌコビッチ前大統領を追い出して非合法に成立したのである。実際、暫定政権の閣僚には鉤十字のマークをつけた暴力団まがいの極右勢力のメンバーが3人入り込んでいる。

ウクライナを乗っ取ったキエフの暴力団は認めるのに、中央政府の役人を追い出したドネツク州やルガンスク州の親ロシア派勢力はなぜ認めないのか。これはダブルスタンダードではないのか――。プレスからこう問われたアメリカの報道官はまともな説明ができなかった。当然である。キエフの政変もクリミアやドネツク州、ルガンスク州で起きていることも理屈は同じなのだから。

アメリカには自らの行動に論理性を与えるルールもなければ、方針もない。あるとすれば、「ロシア側についたら悪」という冷戦時代さながらの発想である。

ロシア編入を圧倒的多数が支持したクリミアの住民投票を、「ウクライナ憲法は全土の国民投票による国境の変更しか認めていない」として暫定政府と欧米は「住民投票は無効」と強く非難した。ドネツク州やルガンスク州でも親ロシア派勢力が実施した住民投票を否定している。

一方のロシアは、ヤヌコビッチ前大統領が非合法な手段で失脚した時点で、ウクライナ憲法は機能していないと主張する。さらに国家の同意を得ないで独立し、国際社会がこれを認めた例として、コソボの独立を引き合いに出している。確かにコソボがセルビアから独立する際、「独立したらEUに入れてやるぞ」とコソボの人々をそそのかして住民投票に持っていったのはEUだ。逆にセルビアのスロボダン・ミロシェビッチ大統領(当時)に対しては「邪魔立てしたらセルビアは永遠にEUに入れてやらない」と脅したのだ。

コソボは認めて、クリミアやドネツク州、ルガンスク州は認めないのはダブルスタンダードだ、とロシアは反論する。そのロシアも自国内ではチェチェン共和国の独立を力で封じ込めているわけで、結局、アメリカもEUもロシアも、原理原則というより、場面場面で自らに都合のいい主張をしているようにしか見えない。

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