街を歩いていると「おや、こんなところに草が生えている」と驚くことがある。ビルが林立するアスファルト道路の割れ目など、思わぬ隙間で花を咲かせている植物に気づくのだ。本書はこうした「スキマの植物」を美しい写真で紹介した新書版のカラー図鑑である。

東大理学部植物学教授といういかめしい肩書を持つ著者が、総計110種もの植物について解説を加えているが、独特の軽妙洒脱で上品な文章が最後まで読者の気を逸らさない。たとえば、カタバミの種子がはじける様子について、「子どもの頃、遊んだことがある方ならよくご存じだろう。けっこうな勢いでタネを飛び出させるので、子どもの薄い皮膚にとっては痛いほどである」と叙述する。

では、なぜ植物たちはわざわざスキマに生えているのであろうか。そのポイントは、光合成によって栄養を摂取する植物には、水と日光と通気の良い場所が不可欠だという点にある。すなわち、「隙間に生えるということは、過酷な環境への忍耐などではなく、(中略)むしろ天国のような環境の独り占め」なのである。

なるほど、本書で取り上げられた植物たちは、いずれもコンクリートやブロック塀の穴といった一見荒涼たる環境に棲息している。ところが、その場所こそがオアシスである、という解説には説得力がある。「植物の生存競争の第一は、この光を求めての努力ということになる。ところがである。アスファルトの隙間のような環境には、この競争をせずに済むという利点がある。(中略)隙間に入り込むことに成功した瞬間、その植物は、そのあたり一帯の陽光を独り占めできる利権を確保したことになる」。

こうした発想は「隙間産業」など広くビジネス界でも活用されているが、実は著者や評者などの理系研究者にとって極めて馴染み深い考えかたなのだ。というのは、斬新な研究のネタは必ず隙間に転がっているものであり、評者も「隙間法」として「先人たちがした仕事の隙間に、あなたの活躍する場が待っている」と日々学生たちへ説いている。スキマ植物たちが自然界で生き延びるために採用した戦略は、ビジネスパーソンにも役立つものばかりと言って過言ではない。

本書に掲載された植物は季節ごとに分けられている。ハルジオン、ハハコグサ、エノコログサ(猫じゃらし)など子どもの頃に親しんだ植物が、最先端の植物学者の手にかかるとどう表現されるかも楽しみだ。さらに、アカメガシワなど、名前を聞いたことがなくとも写真を見れば「よく見かけるな」という植物も少なからずある。読んでから出掛けるか、もしくは出掛けながらページをめくるか。通勤や出張の折に本書をカバンに忍ばせて、都会に生きるスキマ植物の生命力に触れるのも一興ではないだろうか。