ポイント1:情報の聞き出し方

なくならない理由その1は、詐欺犯らは「情報の聞き出し方」が極めて巧みだということだ。

息子を騙った詐欺犯が、「オレオレ」と母親に電話をかけた時、「オレ」と言われると、つい「○○かい」と息子の名前を言ってしまいがちである。すると、息子になりすました人物は、「そうだよ。電話番号が変わったから、メモしてほしい」などと話し始める。

もちろん、すでにターゲットにする人物の名簿があって電話をする時もあるが、電話帳だけを見て、アトランダムに電話をかけることも多く、詳細な名簿が手元にない詐欺犯にとって、息子の名前(家族構成)を聞くことができたことは大きな収穫である。

もしここで母親が「オレ」と言われて、ちょっといつもの息子の声と違うのでおかしいと思い、相手を確かめるために「最近、学校の試験はどうだった?」と尋ねたとすると、今度は「息子が学生である」という情報を与えることになる。

詐欺犯らは、相手の口から自然と、話をさせるように仕向けてくるのだ。

よく会話法では、初対面の人と話をする場合、相手に7割ほど話をさせて、自分は3割程度にとどめるといいというが、彼らはまさにこれを実践し、最初の電話では自分が話す以上の時間を、聞く時間に費やして、情報の収集をする。

私たちは通常、こうした詐欺犯に対して、なんとなく電話口で語気荒く自分の話をまくし立てる“武闘派”のようなイメージを持っているが、それはちょっと違う。むしろ、傾聴することに重きを置いているのだ。

通常のビジネスでも、この聞く7:話す3の法則を実践している。例えば、ある健康食品を販売する通信販売業者だ。電話に出た消費者に「飲んでみませんか」と問いかけたとき、「いらないわ、他のものを飲んでいるから」と返答されたとする。その「他のもの」が何かを聞き出せれば、業者は消費者が何の栄養素に関心を持っているかなどを知ることができる。さらに、消費者が「薬を飲んでいるから、いりません」と答えれば、その薬から病名まで探りあてることもできるのだ。

前出の典型的な詐欺パターンのやりとりには、彼らのもうひとつの“スキル”が隠されていた。