安倍の個性は「理念派・対決路線・猛進型」だが、菅は「現実派・対話路線・熟慮型」、路線も、安倍は「右寄り・タカ派」と呼ばれてもかまわないと公言するが、過去の言動から菅の本質は「リベラル・穏健保守」と見る人が多い。

菅に安倍の品定めを尋ねたら、「しっかりとした国家観と理念を持っている」「理念を掲げるが、行く道は柔軟で、戦略的」と評した。「あまり知られていないが、改革者で、改革意欲が物凄く強い。ここが好き」と付け加えた。

混沌とした現代、政治が果たすべき役割は何か。菅は「第一に平和、安全保障。もう一つは地方分権、自治と自己責任の確立。3つ目にアジアの発展を日本の内需としてとらえる政策を」と説く。自身の意志と選択でやりたいことをやり抜くという人生に徹して、階段を着実に上ってきた菅は、もしかすると、その目的の実現のために、安倍の改革者の一面と限定的に共闘態勢を組んでいるのかもしれない。

竹中平蔵・慶應義塾大学総合政策学部教授

竹中平蔵は菅のパワーの源泉について、出た学校などとは関係なく、「答えはただ一つ、地あたま。これがすべてです。地あたまというのは、基本を踏まえているかどうかです。本当に腹の底で基本を理解している人が地あたまがいい人だと思う。長い間、苦労してきた中で、物事の本質をずっと見てきたのではないか」と評した。

叩き上げの人生で、人間、組織、縦社会、生存競争、欲望と嫉妬、自己実現など、人と社会の本質を見抜き、体得してきたに違いない。その眼力と才能を「地あたま」というのだろう。

だが、政治家としてはこれからが勝負時だ。民意の底流と国際社会の現実を踏まえ、「思い込み・暴走型」の安倍首相をどこまで手綱さばきできるのか。さらに「安倍後」も視野に入れ、「菅政治」をどう構想しているのか。

ここまでは血の滲むような格闘の叩き上げ人生だが、よく見ると、幸運にも助けられ、落選や敗走など決定的な挫折や失敗は未経験だ。逆風、失速、窮地、あるいは転落という場面に立たされたとき、真価が問われるが、直面しないという保証はない。

暇な時間があればやりたいことは、と聞くと、「渓流釣り」とつぶやいた。

「細い糸で、糸を切られないように大きい魚を釣るのはなかなかおもしろい。太い糸だと、食わないんですよ」と笑いながら口にした。「細い糸」で「大きい魚」を釣り上げてきた菅の次の標的は何か。

(文中敬称略)

(尾崎三朗=撮影 時事通信フォト、ロイター/AFLO=写真)
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