昼はアニメ、夜はジャズで街おこし

アニメタウンというと秋葉原や中野を思い浮かべるが、秋葉原や中野が物販中心の街であるのに対して、阿佐ヶ谷は体験型のコンテンツが数多く盛り込まれている。しっかり計算して差別化されているのだ。

考えてみれば、JR総武線にはアニメ・漫画が主要コンテンツの街がたくさんある。例えば、中野駅には「まんだらけ」などがテナントに入る「中野ブロードウェイ」が、三鷹駅の近くには「ジブリ美術館」や「日本のアニメーション」がある。そして、言わずと知れたアニメの殿堂、オタクの聖地「秋葉原」がある。

JRは総武線という都内を東西に横断する路線に、それぞれが持ち味の異なる集客力の高いコンテンツが要所に配置している形だ。阿佐ヶ谷はそうした地の利を生かした、ジェイアール東日本都市開発の町おこしならぬ沿線おこしと言える。既存のアニメタウンに“便乗”した巧みなブランド価値向上の一手と言えるかもしれないな。

などと、考えながら、さらにストリートを行くと……。

ガチャガチャがずらりと並んだ「阿佐ヶ谷駐屯地」を発見。ここの目玉は、オリジナルで作成できるマイ・フィギュア。ポーズを取りながらお立ち台のようなものに乗ってくるりと1周すると全身の3Dスキャンが完了する。

この3DCGデータは、専用のiPhoneとAndroidスマホアプリをダウンロードすれば、スマートフォンであらゆる角度から見ることができ、アプリから3Dフィギュアの注文も可能だ。

「カードキャプターさくら」「電脳コイル」「ちはやふる」「HUNTER×HUNTER」で知られるアニメ制作会社マッドハウスの「阿佐ヶ谷MADHOUSE」は、アニメの制作過程や原画、絵コンテが展示され、パラパラ漫画のように実際に手で触れることもできる。

商店街ではコスプレ姿の人が多いが、手ぶらで訪れても、その場でコスプレを体験ができる「COSMENIA」はコスプレビギナーに人気だ。

約50着の コスプレ衣装だけでなく、小物やウイッグやメイクまで完備されているので、はじめてコスプレをしたい人にはおすすめかもしれない。初めてのコスプレは、気恥ずかしさが伴うが、この商店街ではコスプレ姿が当たり前なので、気兼ねなくコスプレできるのがいい。

ほかにもアニメ×サイエンスがテーマの「マイクロミュージアム・カフェ」や男装コスプレ用の専門ブティック、アニメ視聴に特化したサウンドチェアで、「観る アニメ」から「体験するアニメ」を楽しむ「あにめ座バロックカフェ」など盛りだくさん。

他のアニメタウンと異なるのは、普通の生活道路として、近所の家族連れや買い物帰りの主婦などの往来も多いところ。コスプレーヤーとスーパーのレジ袋を下げたおばさんが肩を並べて歩いているのがいい。

「以前の高架下は倉庫や駐車場で暗く人通りもなかったが、明るくなって近隣の小中学校からも喜ばれている」(鴨志田氏)

沿線おこしは、安全安心な街づくりにも貢献しているということだろうか。

【関連記事】
男装コスプレの深層心理
「コスプレをビジネスにするには(前編)」
「メイドカフェが文化になるには」
「アイドルの新しい働き方」
秋葉原はなぜカレーの街になったか