マーケットや消費者が物流に求めるものが変化している。その変化を躍進につなげるために必要なものとは──。物流コンサルタントの角井亮一氏が「戦略物流思考」の重要性とポイントを説く。

“物流ファースト”で
付加価値を生み出していく

──角井さんは早くから「戦略物流」の重要性を唱えていますが、そもそも戦略物流とはどのようなものでしょうか。
角井亮一●かくい・りょういち
(株)イー・ロジット 代表取締役
多摩大学大学院 客員教授
上智大学経済学部を3年で単位取得修了後、米ゴールデンゲート大学でMBA取得。1994年、船井総合研究所入社。その後、実家の光輝物産入社。2000年にイー・ロジット設立。これまで、英語・日本語・中国語・韓国語で13冊の著書を出版。

【角井】文字どおり「企業戦略の観点から物流をとらえる」こと。また、そうした考え方や戦略の組み立てを「戦略物流思考」と定義しています。私が戦略物流の必要性を説き始めたのは、1990年代の後半からです。近年は、徐々にロジスティクスへの関心が高まり、物流の優劣が企業の成長、競争力を左右するようになってきました。

しかしまだ、多くの経営者は物流を「作業」や「コストダウン」の対象としかとらえておらず、戦略レベルまで意識が高まっていません。もちろんコスト削減を図る「物流思考」、これも非常に重要です。しかし消費者の考え方や行動が着実に変化している今日、物流思考にプラスして戦略物流思考をもって物事にあたらないと、企業経営は難しくなっていくばかりだと思います。

──具体的にはどういうことでしょう。

【角井】例えばスーパーマーケットとコンビニ。消費者はちょっとした買い物だと、価格が少々高くても、遠くのスーパーより近くのコンビニを選びます。当然ながら、利便性が高いからです。顧客が買いやすく、顧客の目に触れる場所に商品を置く。それを実現するのが、まさに物流、サプライチェーンなんです。それによって「付加価値」が生じるから売価も上げられます。

世界最大の小売業である米国ウォルマート。同社では、物流センターを新設してから、周辺での新店舗を開設していきます。これは商品供給など、物流サービスの維持・向上を優先するため。物流コストの削減ではなく、サービスレベル向上の観点から仕組みを組み立てているのです。日本でも成功している大手小売チェーン店は、セントラルキッチンや物流センターを準備してから、店舗展開を進めます。つまり“物流ファースト(物流優先)”──これが戦略物流思考です。

物流センターも
多様なモデルが登場

──物流視点でマーケティングを考える必要があるということですね。

【角井】マーケティングに4Pという考え方があります。「Product(製品)」「Price(価格)」「Promotion(広告)」「Place(流通)」。この4つを組み合わせて、最適なマーケティング活動を行うわけですが、物流は「Place」を担っています。一方で最近は、この4Pがいわばメーカー的な発想だとして、消費者目線の「4C」が注目されるようになってきました。「Customer Value(顧客価値)」「Customer Cost(顧客コスト)」「Communication(コミュニケーション)」「Convenience(利便性)」です。この最後の「利便性」に、物流が深く関与している。

先に述べたコンビニの例や職場で人気の置き菓子サービス、さらに渋谷駅など駅構内のバナナの自販機などは、この利便性を上げる戦略にほかなりません。“いかに商品を顧客の近くに置くか”、つまり「ラスト・ワン・マイル」を超えた「ラスト・ワン・インチ」にこそ、物流の役割と底力があると見ています。

──ネット通販など新たな事業モデルでも物流の役割が大きいですね。

【角井】近年のオフィス向け通販の成長には、巧みなロジスティクス戦略が大きく寄与しています。またEコマースなどのネット専業だけでなく、昔ながらのリアル店舗でも物流戦略を駆使することで、新業態へと進化する可能性がある。また、ネットとリアルを融合した「オムニチャネル」などは、物流とITで創るサプライチェーンそのもの。ロジスティクスを抜きには語ることはできません。

国内でも、コンタクトセンターを併設した物流センターなど、さまざまなモデルが登場してきていますが、この背景には消費者ニーズの変化に対応した戦略物流思考があるように思います。