長いものにまかれながら、うまくやっていく

新しいものを作るときは、何もお手本がない状態から自分であらゆることを考える必要がありますよね。実際に自分の考えがそれで良いのかを過去に照らして確かめることができないので、手さぐりで仕事を進めていくことになります。作ったものが審査にかけられ、一つひとつを審査員に説明し、説得し、了解を得るという積み重ねが大変でした。

ロケットの開発は本当に体力勝負のところがあって、それこそ打ち上げが近づいてくるとメーカーさんの試験場に何度も通い、発見された不具合を直すために徹夜が続くこともあります。

入社したての頃に先輩から「力を入れ過ぎるな」「長いものにまかれながら上手に泳ぐんだよ」と言われたことがあるのですが、打ち上げを何度か経験するうちに、全くその通りだなと思うようになりました。どんなに忙しくて追い詰められていても、気持ちの上ではどこかで力を抜いている。その感じをつかむのが仕事をうまく続けていくコツなのかもしれません。

そんななか、やっぱりこの仕事の一番の醍醐味は打ち上げの瞬間ですね。

ロケットの機体が内之浦に運ばれると、その後は組み立てと点検のために私たちもほとんどの時間を現地で過ごすことになります。イプシロンの場合は初の試みだったので関係者も多く、地元の民宿や隣街のビジネスホテルがほとんどJAXAやメーカーさんのスタッフで埋まっていました。6月頃から3カ月間、私も民宿に泊まって観測所に通いました。まるで合宿のような雰囲気です。

エンジニアは打ち上げの当日になると、ECCという管制室に缶詰になります。直前はみな緊張して寡黙。エンジンに火が点くともう後戻りはできません。轟音がECCに届き、パソコンのモニターでロケットが飛んでいく様子を見守りました。目標の軌道に衛星を投入すれば仕事は一段落、というわけです。